転生ガチャで悪役令嬢になりました

このままではいけないのでは？

　チェリーさんは、第２王子であるラクトウェル殿下のことも「ラクトくん」と呼んでいるし、多分ここにいる全員の身分を理解していない。

　まぁ、乙女ゲーム内ならそれでもヒロインは好かれる存在で、問題はないのだろうけど、あいにくここは乙女ゲームの世界ではない。

　いや。
乙女ゲームの世界かもしれないけど、私たちは生きているし、コマンドで台詞や行動を選択されるのではなく、自分の考えで動いている。

　乙女ゲームでは、悪役令嬢が婚約者の王子の心を奪ったヒロインに嫌がらせをするのだろう。

　それを攻略対象たちが救うのだろうけど・・・

　これ、悪役令嬢である私が学園に通っていない時点で、その役目は他の人に移るのよね？

　そして、正当な理由でチェリーさんは責められそうなんだけど。

　私、乙女ゲームもしないし、ラノベもあまり読んでないからあれだけど、ヒロインの言動って貴族の中では問題じゃない？

　身分を明かしてない王子たち攻略対象が悪いと言えば悪いけど、そもそも距離感がおかしいのよね。

　かといって、私がここで彼らの身分を明かすのもねぇ。

　私は悪役令嬢にはなりたくないし。
それに、王太子妃教育もあるから、そんなにチェリーさんに構ってもいられない。

　本当は、攻略対象である脳筋以外の彼らのうち誰かが、正してあげるべきなんだけど。

　このままだと、普通に正当な理由での注意があって、それを脳筋とか攻略対象がイジメと受け取るという、一般的な乙女ゲームのラノベ展開になるんじゃない？

　チラリと、アーシュリー公爵令息を見る。
　彼か、セイグラム侯爵令息が一番理解が早そうだ。

　この中で一番身分があるのは殿下だけど、はっきり言って殿下とは関わりたくない。

「少し、家同士のお付き合いがあって、面識があるだけですわ。そういえば、アーシュリー様。少しよろしいでしょうか？お伝えしたいことがありますの」

「え、ええ。それではアチラで。皆さんはどうされますか？」

「あ、あのっ！私、まだルミナス様とお話したくて！」

「とても嬉しいのですけど、私ももう戻らなければなりませんの。またの機会でもよろしいかしら？」

　チェリーさんと話すのは構わないのだけど、殿下や脳筋と一緒にいたくない。

　何かにつけて、つっかかれても迷惑だし、私の身分を知ってる人がみれば、チェリーさんが責められるきっかけを与えることになりかねない。

　チェリーさんはあからさまにがっかりした表情を浮かべ、それを見た脳筋が何か言おうとしているのがわかった。

　なので、早々にこの場から退散させてもらう。
　
　私は、アーシュリー公爵令息と共に、少し離れたベンチへと移動した。