上 下
69 / 126

ヒロインとお話しました

しおりを挟む
「皆さま、お騒がせいたしましたわ」

 お母様付きの侍女が、レイラたちと共に小さな包み紙と1輪の薔薇を、ご令嬢たちに配っている。

 あら?あの薔薇は、お母様が大切にしている薔薇園の薔薇ね。
 包み紙は何かしら?

「レイラ」

「奥様より、皆様にお渡しするようにと。ポプリでございます」

 さすが、お母様だわ。
準備していて下さったのね。そして、あのお花畑さんの登場で混乱した場を治めるために、帰りではなく今、配られた。

 私も、こういう気配りができないと、王太子妃には相応しくないって言われてしまうわね。

「あのっ!さっきはすみませんでした」

 突然の声に振り返ると、チェリーさんが勢いよく頭を下げていた。

 声をかけられたけど、注意したりしないわ。だって、チェリーさんは平民。貴族のしきたりなんて知らないのだから。

 学園は平民も通うので、よぼどのこと以上は、そういう制約はないと聞く。
 もちろん、あまりにひどい態度は注意されるそうだけど。

「何も謝られることはありませんわ。王太子殿下も、ご令嬢方の前で少々、対応が厳し過ぎましたもの」

「でも、その、あの人は王子様なんですよね?私、王子様に失礼なことを言ったんですよね・・・」

「殿下は、お気になさらないと思いますわ。それから、王子様という敬称ではなく、王太子殿下とお呼びくださいませ。細かいことのようですが、あの方のように、何かをおっしゃられる方もいらっしゃるかもしれませんから」

「あ、わかりました。ありがとうございます」

 チェリーさんはペコリとお辞儀をしたあと、にっこりと笑った。

 あら、まぁ。
さすがはヒロイン。可愛らしいわ。

 乙女ゲームのヒロインといえば、ピンク色の髪と瞳だと思っていたけど、チェリーさんは大きなクルクルと動くエメラルド色の瞳に、ふわふわとしたオレンジ色の髪をしていた。

 お日様みたいだわ。すごく可愛い。

 私のことは、可愛いとみんな言ってくれるけど、やっぱり銀髪に藍色の瞳って冷たい感じなのよね。

「さ、ご友人もお待ちでしてよ。お楽しみ下さいませね」

 離れた位置で、クラスメイトらしき女の子たちが、こちらを見ている。

 きっと、貴族の令嬢に何か言われてるんじゃないかと、心配しているのね。

 ヒロインであるチェリーさんの、人となりはわかったわ。
 今回のお茶会の目的はそれだもの。これ以上、交流する必要はないわ。

 ちょっと、オマケで妙な侯爵令嬢と接点ができてしまったけど、エレンが私の護衛である限り、いずれは会うことになっていたでしょうね。

 彼女のことは、お母様がどうにかして下さるでしょうから、きっと大丈夫ね。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】どうやら、乙女ゲームのヒロインに転生したようなので。逆ざまぁが多いい、昨今。慎ましく生きて行こうと思います。

❄️冬は つとめて
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生した私。昨今、悪役令嬢人気で、逆ざまぁが多いいので。慎ましく、生きて行こうと思います。 作者から(あれ、何でこうなった? )

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

断罪シーンを自分の夢だと思った悪役令嬢はヒロインに成り代わるべく画策する。

メカ喜楽直人
恋愛
さっきまでやってた18禁乙女ゲームの断罪シーンを夢に見てるっぽい? 「アルテシア・シンクレア公爵令嬢、私はお前との婚約を破棄する。このまま修道院に向かい、これまで自分がやってきた行いを深く考え、その罪を贖う一生を終えるがいい!」 冷たい床に顔を押し付けられた屈辱と、両肩を押さえつけられた痛み。 そして、ちらりと顔を上げれば金髪碧眼のザ王子様なキンキラ衣装を身に着けたイケメンが、聞き覚えのある名前を呼んで、婚約破棄を告げているところだった。 自分が夢の中で悪役令嬢になっていることに気が付いた私は、逆ハーに成功したらしい愛され系ヒロインに対抗して自分がヒロインポジを奪い取るべく行動を開始した。

まさか、婚約者の心の声が聞こえるなんて……~婚約破棄はしない、絶対に~

紫宛
恋愛
子猫を膝の上に乗せ撫で、気が付いたら婚約者の心の声が聞こえていた……! (殿下は、妹が好きなのかしら?私とは、もうダメなのかしら?こんなに好きですのに……) 「え?」 (殿下、お慕いしておりますから……離れていかないで、お願いですわ) 悲しげな声で訴える声に顔を上げるが、彼女の顔は変わっておらず相変わらずの無表情。 だが、心の声は悲しげ。 神の悪戯か……理由は分からないが、この声を頼りに彼女との関係を修復しよう。 婚約破棄? するわけが無いだろう。 私を愛してくれる大事な女性が、ここにいるのだから。 ※素人作品ですが、皆様の暇潰しになれば幸いです※

おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 サロン勤めで拘束時間は長く、休みもなかなか取れずに働きに働いた結果。 貯金残高はビックリするほど貯まってたけど、使う時間もないまま転生してた。 そして通勤の電車の中で暇つぶしに、ちょろーっとだけ遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したっぽい? あんまり内容覚えてないけど… 悪役令嬢がムチムチしてたのだけは許せなかった! さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドを堪能してくださいませ? ******************** 初投稿です。 転生侍女シリーズ第一弾。 短編全4話で、投稿予約済みです。

家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。 その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。 そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。 なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。 私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。 しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。 それなのに、私の扱いだけはまったく違う。 どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。 当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。

【完結】転生したら脳筋一家の令嬢でしたが、インテリ公爵令息と結ばれたので万事OKです。

櫻野くるみ
恋愛
ある日前世の記憶が戻ったら、この世界が乙女ゲームの舞台だと思い至った侯爵令嬢のルイーザ。 兄のテオドールが攻略対象になっていたことを思い出すと共に、大変なことに気付いてしまった。 ゲーム内でテオドールは「脳筋枠」キャラであり、家族もまとめて「脳筋一家」だったのである。 私も脳筋ってこと!? それはイヤ!! 前世でリケジョだったルイーザが、脳筋令嬢からの脱却を目指し奮闘したら、推しの攻略対象のインテリ公爵令息と恋に落ちたお話です。 ゆるく軽いラブコメ目指しています。 最終話が長くなってしまいましたが、完結しました。 小説家になろう様でも投稿を始めました。少し修正したところがあります。

【完結】悪役令嬢に転生したけど『相手の悪意が分かる』から死亡エンドは迎えない

七星点灯
恋愛
絶対にハッピーエンドを迎えたい! かつて心理学者だった私は、気がついたら悪役令嬢に転生していた。 『相手の嘘』に気付けるという前世の記憶を駆使して、張り巡らされる死亡フラグをくぐり抜けるが...... どうやら私は恋愛がド下手らしい。 *この作品は小説家になろう様にも掲載しています

処理中です...