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番外編
本当に大切なものは何?《クラン視点》
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婚約解消・・・
彼女が望むなら、僕はそれに応えてあげるべきだ。
僕たち貴族の婚約は、家と家の契約。
格上の公爵家からの申し出だから、侯爵家としては断れなかったんだろう。
もしかしたら、好きな男がいるのかもしれない。
そこまで考えて、それを嫌だと思う自分に気がついた。
彼女の柔らかな微笑みが、他の誰かに向けられる?
僕以外の誰かが、彼女の細く華奢な体を抱きしめて、愛を囁くのか?
嫌だ。
「婚約・・・は、解消しない」
僕は、王太子殿下の気持ちが、初めて心から理解できた。
大切な人は、誰にも、そう家族にすら渡したくない。
僕は、弟である僕にすら嫉妬する王太子殿下を半分呆れた思いで見ていた。
でも、今やっと分かった。
王太子殿下にとって、姉上は唯一無二なんだ。他に代わりがいない存在。
失ったら、自分が自分でいられない。そう思えるほど、愛しているんだ。
本当に大切なものは、手を伸ばせば届くところにあって、でも、だからこそその大切さに気付かない。
僕は愚かだ。
彼女の心が、僕を疎ましいと思っていても、僕は彼女を手放してあげられない。
「クラン様?」
「シャルロット嬢は・・・そんなに僕が嫌い?」
「え?何を・・・クラン様?」
僕は立ち上がると、シャルロット嬢の後ろへと回り、ソファー越しにシャルロット嬢を抱きしめた。
「嫌だ。嫌だ。君を失いたくない。政略結婚でもいい。僕を好きでなくてもいい。お願いだから、僕のそばにいて。君が・・・好きなんだ」
「・・・クラン様は、ズルい人です・・・」
「ごめん」
「わたくし、やっとクラン様を諦める決心をしましたのに。政略結婚でもいいと思っていましたけど、やっぱり愛されないのは悲しくて、だから、やっと、やっと決心しましたのよ?」
シャルロット嬢が、抱きしめる僕の手に、そっと触れた。
「もう一度、ちゃんとおっしゃってくださいませ」
「シャルロット・・・嬢?」
「クラン・リリウム公爵令息様。わたくし、シャルロット・ウィステリアは貴方をお慕いしております」
そう言ったシャルロット嬢の耳が、真っ赤になっているのが分かった。
俯いているせいで見えた、赤く染まったうなじに、ぐらりとめまいがする。
駄目だ。
これは人として駄目な衝動が、抑えきれなくなる。
慌てて、シャルロット嬢の前へとしゃがみ込んだ。
その、揃えられた両手を僕の手で握りしめる。小さくて、細くて、僕が守っていかなければならない両手。
「シャルロット・ウィステリア侯爵令嬢。シャルロット、君が好きだ。どうかずっと僕の側にいて欲しい」
見上げたシャルロットの瞳から、真珠のような涙がポロリとこぼれた。
膝立ちのまま彼女を抱きしめて、その眦に口付けをする。
「く、クラン様・・・」
「シャルロット、君が好きだ。その柔らかな金髪も、綺麗な鳶色の瞳も、真っ白な肌も、小さな手も、細く折れそうな体も、優しい微笑みも、慎ましやかだけど凛とした性格も、全部、全部、可愛くて、愛しい」
「くっ、クラン様は極端すぎますわ!」
腕の中でシャルロットが、何やら抗議をしてるけど、僕は愛しい婚約者を絶対に離すものかと抱きしめるのだったー
彼女が望むなら、僕はそれに応えてあげるべきだ。
僕たち貴族の婚約は、家と家の契約。
格上の公爵家からの申し出だから、侯爵家としては断れなかったんだろう。
もしかしたら、好きな男がいるのかもしれない。
そこまで考えて、それを嫌だと思う自分に気がついた。
彼女の柔らかな微笑みが、他の誰かに向けられる?
僕以外の誰かが、彼女の細く華奢な体を抱きしめて、愛を囁くのか?
嫌だ。
「婚約・・・は、解消しない」
僕は、王太子殿下の気持ちが、初めて心から理解できた。
大切な人は、誰にも、そう家族にすら渡したくない。
僕は、弟である僕にすら嫉妬する王太子殿下を半分呆れた思いで見ていた。
でも、今やっと分かった。
王太子殿下にとって、姉上は唯一無二なんだ。他に代わりがいない存在。
失ったら、自分が自分でいられない。そう思えるほど、愛しているんだ。
本当に大切なものは、手を伸ばせば届くところにあって、でも、だからこそその大切さに気付かない。
僕は愚かだ。
彼女の心が、僕を疎ましいと思っていても、僕は彼女を手放してあげられない。
「クラン様?」
「シャルロット嬢は・・・そんなに僕が嫌い?」
「え?何を・・・クラン様?」
僕は立ち上がると、シャルロット嬢の後ろへと回り、ソファー越しにシャルロット嬢を抱きしめた。
「嫌だ。嫌だ。君を失いたくない。政略結婚でもいい。僕を好きでなくてもいい。お願いだから、僕のそばにいて。君が・・・好きなんだ」
「・・・クラン様は、ズルい人です・・・」
「ごめん」
「わたくし、やっとクラン様を諦める決心をしましたのに。政略結婚でもいいと思っていましたけど、やっぱり愛されないのは悲しくて、だから、やっと、やっと決心しましたのよ?」
シャルロット嬢が、抱きしめる僕の手に、そっと触れた。
「もう一度、ちゃんとおっしゃってくださいませ」
「シャルロット・・・嬢?」
「クラン・リリウム公爵令息様。わたくし、シャルロット・ウィステリアは貴方をお慕いしております」
そう言ったシャルロット嬢の耳が、真っ赤になっているのが分かった。
俯いているせいで見えた、赤く染まったうなじに、ぐらりとめまいがする。
駄目だ。
これは人として駄目な衝動が、抑えきれなくなる。
慌てて、シャルロット嬢の前へとしゃがみ込んだ。
その、揃えられた両手を僕の手で握りしめる。小さくて、細くて、僕が守っていかなければならない両手。
「シャルロット・ウィステリア侯爵令嬢。シャルロット、君が好きだ。どうかずっと僕の側にいて欲しい」
見上げたシャルロットの瞳から、真珠のような涙がポロリとこぼれた。
膝立ちのまま彼女を抱きしめて、その眦に口付けをする。
「く、クラン様・・・」
「シャルロット、君が好きだ。その柔らかな金髪も、綺麗な鳶色の瞳も、真っ白な肌も、小さな手も、細く折れそうな体も、優しい微笑みも、慎ましやかだけど凛とした性格も、全部、全部、可愛くて、愛しい」
「くっ、クラン様は極端すぎますわ!」
腕の中でシャルロットが、何やら抗議をしてるけど、僕は愛しい婚約者を絶対に離すものかと抱きしめるのだったー
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