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番外編

公爵家嫡男の婚約事情《クラン視点》

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 僕には1歳年上の姉がいる。
青みがかった銀髪に、空色の瞳。誰もが見惚れる美貌の持ち主。
 アニエス・リリウム。公爵家の令嬢である。

 生まれた時から、このハイドランジア王国王太子殿下の婚約者で、絵に描いたような公爵令嬢だった姉が変わったのは、いつからだろう。

 ずっと、完璧な姉が疎ましかった。
だけど、いつのまにか僕は姉のことが大好きになった。

 いや、違う。多分、ずっと好きだったんだ。だけど、それを認めたくなかっただけだったんだと今なら分かる。

 どれだけ好きでも、僕と姉は姉弟だ。
血のつながった僕たちが結ばれることはないし、それに王太子殿下がいる。

 殿下は、姉のことをとても好きみたいだった。そして、姉にとっても殿下は特別な存在みたいで・・・

 学園に入学した頃は、姉を見守るつもりだった僕は、殿下との距離が近くなっていく姉を見るのが辛くなって、父上と相談して婚約者を決めることにした。

 僕は、リリウム公爵家の嫡男だ。
本当ならもっと早く婚約者を決めるはずだった。

 だけど、姉を・・・アニエス姉上を特別視していた僕は、婚約者を作る気になれなかったんだ。

 こんな情けない僕の婚約者になったのは、シャルロット・ウィステリア侯爵令嬢。金髪に鳶色の瞳の、可愛らしいご令嬢だ。

 姉上が女神だとしたら、シャルロット嬢は妖精だと思う。
 可憐で、力を入れたら折れてしまいそうな、そんな婚約者のことを、僕は大切にしているつもりだった。

 あの日、シャルロット嬢の涙を見るまでは、僕はそう思っていたんだ。

 あの日、お茶会の場で、シャルロット嬢は僕に対して頭を下げた。

「わたくしと婚約を解消して下さいませ」

「え?ど、どうして?僕、何かした?」

 突然、シャルロット嬢から聞かされた婚約解消という言葉に、僕は取り乱した。

「いいえ。ですが・・・」

「ですが、なに?」

「クラン様。クラン様はわたくしの好きな花をご存知ですか?」

 シャルロット嬢の好きな花?
ええと。薔薇の花束を贈ったら喜んでくれたっけ。

「薔薇だよね?」

「・・・好きな食べ物は?」

「クッキーとか甘い物が好き・・・だよね」

 そう言いながら、僕はそんな話すらシャルロット嬢としていなかったことに気付いた。

 いつも僕の話すことをニコニコしながら聞いてくれていたけど、僕は彼女のことを何か知ろうとしていただろうか?

「・・・ごめん」

「いいえ、クラン様。クラン様は悪くありませんわ。でも・・・わたくしはもう誰かの身代わりでクラン様に微笑みかける自信がないのです。ですから、お願いします。婚約を解消して下さいませ」

 そう言って微笑んだシャルロット嬢の瞳から、大粒の涙がポロリとこぼれた。






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