「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな

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学園卒業編

羞恥の果てに

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 おかしい。
私は手加減して欲しいと言ったはずなのに、どうしてマリウスにキスされているのかしら?

 し、しかも、しつこい。
全然、手加減されてないんだけど!

 トン!とマリウスの胸を叩く。
マリウス。手加減。手加減!
お願いしたのに、全然届いてない!

「ま、マリ様・・・」

「ごめん、アニエス。まだ足りない」

 再び、マリウスが覆いかぶさって来て、唇が重なる。

 足りないって何!?
マリウスってこんな肉食系だっけ?

 うゔーっ!アラサーといっても全然、全く、こんなことに経験ないのに。
 アニエスとしても、王太子妃教育で閨教育も受けたけど、それだって殿方にお任せしておけば良いってだけだったし。

 いやいや。
マグロでいいってこと?
 経験値はないけど、一応おばちゃん耳年増というヤツで、そういう本だって読んだことあるわけで。

 イニシアチブを取ろうとは思わないけど、こんなやられっぱなしというのも・・・

 段々と深くなる口付けに、頭の芯がぼーっとしてくる。
 こういう時は鼻で息をするらしいけど、そんな余裕なんかない。

 私の息が絶え絶えになった頃、ようやくマリウスの唇が離れた。
 離れたけど、熱のこもった瞳で、私を見下ろしている。

「アニエス・・・」

「マリ様の馬鹿・・・手加減してくださいって言ったのに」

 生理的な涙がこぼれた。
マリウスが慌てたように、私の目尻に流れる涙を指で拭う。

「ご、ごめん。ごめん、アニエス。お願いだから泣かないで」

「ううっ・・・」

 悲しいわけでも悔しいわけでもないのに、涙が止まらない。

「アニエス、ごめん」

「マリ様のぱかぁ。もうキスしないぃ~」

「ごめん!ごめんよ、アニエス。そんなこと言わないで。アニエスの欲しい物、何でも買ってあげる。行きたいとこはある?何でもいうこと聞くから、そんなこと言わないで」

 マリウスの方が泣きそうな顔で、必死に謝ってくる。
 こんな情けない顔のマリウス、乙女ゲームの中で見たことない。

 頭がキレて、剣技も優れてて、容姿もピカイチで、その上身分まである、私の旦那様は、どうにも私には弱いらしい。

 それが嬉しくて、情けない顔のマリウスを見ていたら、自然と笑みが浮かんでしまった。

「アニエス・・・ごめんね」

「どんなマリウス様も好きですけど、あんまり意地悪しないでください。でないと、実家に帰っちゃいますよ」

「わかった!約束する!」

 マリウスのした約束は、この先時々破られて、私が実家に帰ることになるのだが、それはまた、別のお話である。


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