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聖女覚醒編
君のために出来ること《マリウス視点》
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チェリー・ベラドンナ男爵令嬢を、北の修道院に送った。
本来なら男爵も爵位返上すべきだが、彼女を養女に迎えて間もないことと、アニエスと当事者のマリア嬢が男爵を罪に問わないことを求めたのだ。
父上も教皇様も、当事者の聖女様のご意志を尊重する形になった。
マリア嬢は目覚めたが、やはり相当怖い思いをしたのだろう。
我々が近づくと、体を強張らせるのだ。
それでも、我慢して笑顔で接しようとするのが痛々しく、彼女は現在、学園を休んでいる。
そのせいか、アニエスが目に見えて沈んでいた。
「アニエス。大丈夫?」
「マリ様、ご心配をおかけして申し訳ありません。ですが、大丈夫ですわ」
僕には遠慮しないで甘えて欲しいのに。
そのまま彼女に手を伸ばして、腕の中に抱き込んだ。
「マリ様?」
「僕に頼って?僕に甘えてよ?確かに僕に出来ることは、ないかもしれない。でも、アニエスが苦しい時、抱きしめることくらいは出来る。話を聞くことくらいはできる。だから、そんな泣きそうな顔で、ひとりでいないで」
腕の中の婚約者が、ビクッと体を震わせた。
わかっている。アニエスが僕に甘えようとしないのは、無意識のことなんだって。
彼女の気持ちを疑うつもりはない。
あの、意識を失った時から、アニエスは変わろうとしてくれている。
だけど、それじゃ足りないんだ。
僕は、本当はアニエスに僕だけを見ていて欲しい。
彼女の世界を僕だけにして、僕だけを見て、僕だけに笑いかけて、僕だけを好きでいて欲しい。
アニエスはみんなに愛されている。
リリウム公爵たちにも、弟のクランにも、それから学園の学友たちにも。
あのファレノプシス嬢にぞっこんのレイノルドですら、アニエスには心を許している気すらする。
僕は・・・
怖いのかもしれない。
アニエスはちゃんと、僕を好きでいてくれていると理解しているのに、彼女はあまりにも魅力的だから、彼女の周囲にいる男たちに奪われてしまうんじゃないか、って。
「カイは・・・本当にすごいね。アニエスの憂いをちゃんと晴らした」
「そう・・・ですね?わたくしもびっくりしました。カイはわたくしに救われたと言ってくれてますけど、本当はわたくしのほうが助けられていますのに」
彼女の答えに、僕は気がついた。
ああ。僕は、カイに嫉妬してるんだ。僕こそが彼女の憂いを晴らしたかったと。
「マリ様?どうしてそんなお顔をなされていますの?」
「いや・・・情けないと思ってね。僕はどうやら、カイに嫉妬してるみたいだ。アニエスの力に、僕こそがなりたかったのだとね。本当に情けないよ。だけど、僕はこれからきっと、君の力になれる男になる。君を守り、支え、助けられる男になると誓うよ」
だから、どうか僕のそばにいて。
本来なら男爵も爵位返上すべきだが、彼女を養女に迎えて間もないことと、アニエスと当事者のマリア嬢が男爵を罪に問わないことを求めたのだ。
父上も教皇様も、当事者の聖女様のご意志を尊重する形になった。
マリア嬢は目覚めたが、やはり相当怖い思いをしたのだろう。
我々が近づくと、体を強張らせるのだ。
それでも、我慢して笑顔で接しようとするのが痛々しく、彼女は現在、学園を休んでいる。
そのせいか、アニエスが目に見えて沈んでいた。
「アニエス。大丈夫?」
「マリ様、ご心配をおかけして申し訳ありません。ですが、大丈夫ですわ」
僕には遠慮しないで甘えて欲しいのに。
そのまま彼女に手を伸ばして、腕の中に抱き込んだ。
「マリ様?」
「僕に頼って?僕に甘えてよ?確かに僕に出来ることは、ないかもしれない。でも、アニエスが苦しい時、抱きしめることくらいは出来る。話を聞くことくらいはできる。だから、そんな泣きそうな顔で、ひとりでいないで」
腕の中の婚約者が、ビクッと体を震わせた。
わかっている。アニエスが僕に甘えようとしないのは、無意識のことなんだって。
彼女の気持ちを疑うつもりはない。
あの、意識を失った時から、アニエスは変わろうとしてくれている。
だけど、それじゃ足りないんだ。
僕は、本当はアニエスに僕だけを見ていて欲しい。
彼女の世界を僕だけにして、僕だけを見て、僕だけに笑いかけて、僕だけを好きでいて欲しい。
アニエスはみんなに愛されている。
リリウム公爵たちにも、弟のクランにも、それから学園の学友たちにも。
あのファレノプシス嬢にぞっこんのレイノルドですら、アニエスには心を許している気すらする。
僕は・・・
怖いのかもしれない。
アニエスはちゃんと、僕を好きでいてくれていると理解しているのに、彼女はあまりにも魅力的だから、彼女の周囲にいる男たちに奪われてしまうんじゃないか、って。
「カイは・・・本当にすごいね。アニエスの憂いをちゃんと晴らした」
「そう・・・ですね?わたくしもびっくりしました。カイはわたくしに救われたと言ってくれてますけど、本当はわたくしのほうが助けられていますのに」
彼女の答えに、僕は気がついた。
ああ。僕は、カイに嫉妬してるんだ。僕こそが彼女の憂いを晴らしたかったと。
「マリ様?どうしてそんなお顔をなされていますの?」
「いや・・・情けないと思ってね。僕はどうやら、カイに嫉妬してるみたいだ。アニエスの力に、僕こそがなりたかったのだとね。本当に情けないよ。だけど、僕はこれからきっと、君の力になれる男になる。君を守り、支え、助けられる男になると誓うよ」
だから、どうか僕のそばにいて。
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