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聖女覚醒編
窮地2《マリア視点》
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下品な言葉と引き換えに、私はお花摘みに行くことができた。
だけど当然、扉の前で男は待ったままで、逃げ出すことなど不可能だった。
往復で見た様子が、どうやら私の家と変わらないような感じだから、おそらくは平民の家だと思う。
だけど、その家の中からは他の人間の声も聞こえていて、私を連れて来た連中がいるのだと推測できた。
私の足では、見つかれば逃げきれない。
どうにか彼らが眠っているか、出かけた隙に逃げ出せないか考えないと。
「さてと、足と手を出しな」
「あっ、あの、縛られて痛いんです。拘束するのは許してもらえませんか」
「ああ?そんなわがままが通るわけが・・・いや、いいぜ。縛らないでおいてやっても」
よかった。縛られてたら、いくら機会があっても逃げられない。
そう思った私に、男はニタニタしながら手を伸ばして来た。
「ただし、服を脱ぐならな。拘束しなくても裸なら逃げ出せないからな」
「!!」
「自分で脱げないってなら、脱がしてやるぜ」
私はまだ14歳だ。
まさか、子供の私にそんなマネをしようとする人間がいるとは思ってなかった。
学園に通っていたせいかもしれない。
私の周囲にいた方々は、みんな貴族としての生き方、つまり婚姻までは清い交際をしていたから・・・
平民の中には、そういうことをいている人がいることを忘れていたのだ。
だから、反応が遅れた。
「いやっ!!」
そのまま腕を掴まれ、部屋から連れ出される。
そして、その男は別の部屋に私を放り込むと、鍵をガチャリと内側から閉めた。
さっきまでいた部屋は薄暗くて、おそらくは物置みたいなものだったのだろう、窓もなかったけど、この男の部屋なのか、部屋の奥には窓が見える。
窓に駆け寄ろうとした私は、部屋に残った男に、ベッドの上へと投げ出された。
のしかかってくる男の荒い息。男臭いベッドのシーツ。押さえつけてくる腕の強さ。
その全てに恐怖が湧き起こった。
「殺してもいいと言われているんだ。どうせなら、客を取らせてやるよ。その前に・・・ちょーっとガキだが、味見させてもらうか」
客・・・
このハイドランジア王国には娼館はないけれど、他国にはあると聞く。
しかも、殺してもいいと言われてるって。じゃあ、私は聖女だから攫われたわけではない?
だけど穢されるくらいなら。
穢れた私では、もうアニエス様に会えない。
私には、この男を突き飛ばす力はない。
でも。
舌を噛むくらいなら、私にだってできる。
アニエス様。
もう1度、会いたかった。
お父さん、お母さん、ごめんなさい。
私、私は・・・
伸びて来た男の手に、キツく目を瞑り、歯の間に自分の舌を挟んだ。
だけど当然、扉の前で男は待ったままで、逃げ出すことなど不可能だった。
往復で見た様子が、どうやら私の家と変わらないような感じだから、おそらくは平民の家だと思う。
だけど、その家の中からは他の人間の声も聞こえていて、私を連れて来た連中がいるのだと推測できた。
私の足では、見つかれば逃げきれない。
どうにか彼らが眠っているか、出かけた隙に逃げ出せないか考えないと。
「さてと、足と手を出しな」
「あっ、あの、縛られて痛いんです。拘束するのは許してもらえませんか」
「ああ?そんなわがままが通るわけが・・・いや、いいぜ。縛らないでおいてやっても」
よかった。縛られてたら、いくら機会があっても逃げられない。
そう思った私に、男はニタニタしながら手を伸ばして来た。
「ただし、服を脱ぐならな。拘束しなくても裸なら逃げ出せないからな」
「!!」
「自分で脱げないってなら、脱がしてやるぜ」
私はまだ14歳だ。
まさか、子供の私にそんなマネをしようとする人間がいるとは思ってなかった。
学園に通っていたせいかもしれない。
私の周囲にいた方々は、みんな貴族としての生き方、つまり婚姻までは清い交際をしていたから・・・
平民の中には、そういうことをいている人がいることを忘れていたのだ。
だから、反応が遅れた。
「いやっ!!」
そのまま腕を掴まれ、部屋から連れ出される。
そして、その男は別の部屋に私を放り込むと、鍵をガチャリと内側から閉めた。
さっきまでいた部屋は薄暗くて、おそらくは物置みたいなものだったのだろう、窓もなかったけど、この男の部屋なのか、部屋の奥には窓が見える。
窓に駆け寄ろうとした私は、部屋に残った男に、ベッドの上へと投げ出された。
のしかかってくる男の荒い息。男臭いベッドのシーツ。押さえつけてくる腕の強さ。
その全てに恐怖が湧き起こった。
「殺してもいいと言われているんだ。どうせなら、客を取らせてやるよ。その前に・・・ちょーっとガキだが、味見させてもらうか」
客・・・
このハイドランジア王国には娼館はないけれど、他国にはあると聞く。
しかも、殺してもいいと言われてるって。じゃあ、私は聖女だから攫われたわけではない?
だけど穢されるくらいなら。
穢れた私では、もうアニエス様に会えない。
私には、この男を突き飛ばす力はない。
でも。
舌を噛むくらいなら、私にだってできる。
アニエス様。
もう1度、会いたかった。
お父さん、お母さん、ごめんなさい。
私、私は・・・
伸びて来た男の手に、キツく目を瞑り、歯の間に自分の舌を挟んだ。
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