「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな

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聖女覚醒編

私に出来ることを

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 マリア。
私の大切な友達。

 乙女ゲーム『青の箱庭』のヒロインだと、最初はずっとこだわってた。
 アニエスから、大好きな婚約者の心を奪っていく主人公。

 だけど、私の知ってるマリアは、私のことをとても大切に思ってくれていて、マリ様のことを好きにならなくて、それから、とても頑張り屋で優しい女の子だった。

 なのに、どうして私は、彼女のことを守ってあげることが出来なかったんだろう。

 私は結局、マリ様に無理矢理、リリウム公爵家へと帰らされた。

 私も一緒に探すと言ったけど、マリ様はレイノルドやニコラス、ルビスにも声をかけて探索隊を結成するからと。だから信じて待っていて欲しい、と。

 私は、脳内がいくらアラサーだと言っても、体は公爵令嬢だ。
 しかも、そのアラサー自体の経験もろくに機能しているとは言えなくて、そんな私では足を引っ張ってしまうかもしれない。

 マリ様の指示に従うしかなかった。
クランもマリ様たちと捜索隊に加わってくれている。

「お嬢様」

「カイ・・・わたくしは、本当に駄目ね」

「お嬢様の憂いを晴らすのが、私の役目です。どうか、私にご命令下さい」

 自分の無力さに卑屈な物言いになった私に、カイは恭しく跪いた。

「完全に誘拐だと決まっていない今、殿下も教会の方々も、大々的に捜索隊を出せないでしょう。王家の諜報が動けば見つかるでしょうが、諜報を動かすには陛下の許可が必要になります」

「そうね。だからこそ、マリ様たちはご自分たちで探してくださっているのでしょう」

 私たちは、マリアの人となりを理解している。
 だけど王家の諜報を動かすには、周囲の貴族を納得させる理由がいるのだ。

 マリアは間違いなく聖女だけど、貴族の中には平民だからという目があることも事実だ。

「ですが、私ならお嬢様のご命令をいただければ、自由に動けます。私は平民です。殿下たちよりも街のことはよくわかっています」

「カイ・・・」

「全ては、私を救ってくれたお嬢様のために。お嬢様は一言おっしゃって下さればいいのです」

 カイの言葉に私は胸が苦しくなった。
違う。私はカイが思っているような出来た人間ではない。

 あの頃の私は、乙女ゲームやラノベに囚われていて、マリ様にも自分自身にも向き合わず、ただマリ様に捨てられる運命から逃げるためだけに、カイを侍従にしたんだ。

 だから、カイは私に救われたって言うけど、そうじゃない。
 私が、カイに救われたんだ。
だけど・・・

「カイ。お願い。マリアを探して。そして、助け出して」

「全てはお嬢様のお心のままに」
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