「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな

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悪役令嬢回避編

客観的に《アニエス視点》

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 わたくしの意識は、真っ白な世界の中で、まるで母のお腹の中にいるような、そんな安らぎとともにありました。

 このまま消えて死んでしまうのだろうと思っていたわたくしは、突如その空間に現れた眩い光を見つけたのです。

 その光は、わたくしには見慣れない黒髪と黒い瞳をした、わたくしのお母様くらいの年齢でしょうか?もう少しお若いかもしれませんね。そんな女性でした。

 平民の方が着るような服を召されていますし、貴族の方ではないようです。

 その光が、わたくしの表層に上がっていくのを、わたくしはぼんやりと眺めていました。

 そして、その方が『アニエス・リリウム』となったのです。
 その時のわたくしの驚きといったら、説明しようがありませんわ。

 彼女は・・・お名前が分かりませんから彼女としますわね。彼女は、何故かマリウス王太子殿下との距離を取ろうとしているようでしたわ。

 彼女の時々呟く『おとめげぇむ』やら『らいとのべる』というものが何なのかは分かりませんが、それでも彼女は彼女なりに、アニエス・リリウムとして生きてくれているようでした。

 ならばと、わたくしは眠りにつくことにしました。

 マリウス王太子殿下と距離を取ろうとしていることは気になりましたが、彼女とわたくしは別の人間です。

 彼女が自分で考え、婚約者からおりるというのなら、すでに魂でしかないわたくしがどうこう言う権利はありません。

 むしろ、お父様やお母様を悲しませずに済むように、わたくしとして振る舞ってくれていることに感謝すらしているのです。

 彼女がどういう決断をするにせよ、わたくしはこのまま静かに、時を過ごすはずでした。

 ところが、わたくしの眠る場所に、彼女がやって来たのです。

 わたくしは眠りについていますが、彼女が何を考え、どう振る舞っていたのかは、舞台のシーンを見るように、頭の中に流れ込んできます。

 ですから、彼女がマリウス殿下を救った聖女と呼ばれる少女を医務室に連れて行くように殿下に言った理由も、それから魔獣を倒すために色々と頑張っていたことも、すぐに理解しました。

 どうやら彼女は、自分が年上だということで、殿下を恋愛対象には見れないと思い込んでいるようですわ。

 本当に・・・
彼女はわたくしのお母様と同じくらいの年齢の方なのかしら。

 確かに彼女は、年上なのかもしれませんけど、考え方やしていることは、わたくしたちと何ひとつ変わりませんわ。

 むしろ、年上なのかと疑うことすらあるくらいです。

 彼女は、自分をよく見つめ直すべきだと思いますわ。
 年齢に拘らず、殿下をはじめ、皆様が自分をどう見ているのか、そして自分は殿下たちをどう見ているのか。

 いい機会ですから、客観的に見てみるべきだと思いましてよ。

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