39 / 128
悪役令嬢回避編
事件2
しおりを挟む
「何度やろうとしても、力が出ないんです。私、私はやっぱり聖女なんかじゃ・・・」
「マリア様!落ち着いてくださいませ」
自分の体を抱きしめるようにしながらかぶりを振るマリアを、キツく抱きしめる。
力が出ないのは、おそらく焦りのあまりにパニックになっているからだ。
マリアは間違いなく聖女だ。
それは、もしもマリアが乙女ゲームやラノベのマリアと別の存在だったとしてもだ。
マリアは、教皇から聖女と認定を受けている。
教皇は教会を統べる存在。
この国の、国王陛下と並ぶ力を持つ教皇が認めたのだから。
「マリア様。落ち着いて。ゆっくり息を吸って、ゆっくり吐いて下さい。大丈夫です。マリア様は間違いなく聖女様です。焦らすゆっくりと、傷を癒すイメージを頭の中に描いて・・・わたくしがお隣におります。不安に思うことはありません」
「で、でも・・・」
「マリア様。大切なモノを守るときには、強くあらねばなりません。貴女は間違いなく聖女様です。どうかお心を強く持って下さい」
残念ながら、アニエスには癒しの力はない。その力は、聖女のみにしかないものだから。
だから、ここはマリアがマリウス殿下を癒すしか手はないのだ。
不安に揺れる瞳が、私とマリウス殿下、ルビスやレイノルドやニコラスたちを巡って、再びマリウス殿下へと戻った。
血の気の引いたマリウス殿下の手を、マリアがぎゅっと握りしめる。
「マリア・・・嬢・・・無理、を・・・する、な」
気丈にも、まだ意識は保っているみたいだが、あまり時間はないようだ。
「まさか、殿下に・・・こんなつもりじゃ・・・」
「ロードデンドロン様。あの方たちの拘束を」
背後から聞こえて来た、聞き捨てならない呟きに、私はルビスに視線を向けた。
ルビスも聞こえていたのだろう。すぐさま立ち上がり、騎士科の教師たちに守られるご令嬢たちの方へと向かって行った。
こんなつもりじゃということは、何かしら彼女たちがこの件に関わっているということ。
前方に視線を向けると、レイノルドたちが魔獣の動きを封じているが、倒すところまではいかないようだ。
「マリア様」
「・・・アニエス、無理を・・・言うな」
「殿下は黙っていて下さいませ。体力を消耗しますわ」
「アニエス様。私、やってみます」
マリウス殿下の手を握りしめたまま、マリアは決意のこもった目で、私を見つめる。
私が頷き返すと、マリアはその光の宿った瞳をゆっくりと閉じた。
マリアの周囲が、淡く光りはじめる。
それは、前世での記憶の中のオーロラのように、揺めき、光を変え、幾重にも重なり、そしてー
「マリア様!落ち着いてくださいませ」
自分の体を抱きしめるようにしながらかぶりを振るマリアを、キツく抱きしめる。
力が出ないのは、おそらく焦りのあまりにパニックになっているからだ。
マリアは間違いなく聖女だ。
それは、もしもマリアが乙女ゲームやラノベのマリアと別の存在だったとしてもだ。
マリアは、教皇から聖女と認定を受けている。
教皇は教会を統べる存在。
この国の、国王陛下と並ぶ力を持つ教皇が認めたのだから。
「マリア様。落ち着いて。ゆっくり息を吸って、ゆっくり吐いて下さい。大丈夫です。マリア様は間違いなく聖女様です。焦らすゆっくりと、傷を癒すイメージを頭の中に描いて・・・わたくしがお隣におります。不安に思うことはありません」
「で、でも・・・」
「マリア様。大切なモノを守るときには、強くあらねばなりません。貴女は間違いなく聖女様です。どうかお心を強く持って下さい」
残念ながら、アニエスには癒しの力はない。その力は、聖女のみにしかないものだから。
だから、ここはマリアがマリウス殿下を癒すしか手はないのだ。
不安に揺れる瞳が、私とマリウス殿下、ルビスやレイノルドやニコラスたちを巡って、再びマリウス殿下へと戻った。
血の気の引いたマリウス殿下の手を、マリアがぎゅっと握りしめる。
「マリア・・・嬢・・・無理、を・・・する、な」
気丈にも、まだ意識は保っているみたいだが、あまり時間はないようだ。
「まさか、殿下に・・・こんなつもりじゃ・・・」
「ロードデンドロン様。あの方たちの拘束を」
背後から聞こえて来た、聞き捨てならない呟きに、私はルビスに視線を向けた。
ルビスも聞こえていたのだろう。すぐさま立ち上がり、騎士科の教師たちに守られるご令嬢たちの方へと向かって行った。
こんなつもりじゃということは、何かしら彼女たちがこの件に関わっているということ。
前方に視線を向けると、レイノルドたちが魔獣の動きを封じているが、倒すところまではいかないようだ。
「マリア様」
「・・・アニエス、無理を・・・言うな」
「殿下は黙っていて下さいませ。体力を消耗しますわ」
「アニエス様。私、やってみます」
マリウス殿下の手を握りしめたまま、マリアは決意のこもった目で、私を見つめる。
私が頷き返すと、マリアはその光の宿った瞳をゆっくりと閉じた。
マリアの周囲が、淡く光りはじめる。
それは、前世での記憶の中のオーロラのように、揺めき、光を変え、幾重にも重なり、そしてー
67
お気に入りに追加
8,020
あなたにおすすめの小説
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。
転生したら避けてきた攻略対象にすでにロックオンされていました
みなみ抄花
恋愛
睦見 香桜(むつみ かお)は今年で19歳。
日本で普通に生まれ日本で育った少し田舎の町の娘であったが、都内の大学に無事合格し春からは学生寮で新生活がスタートするはず、だった。
引越しの前日、生まれ育った町を離れることに、少し名残惜しさを感じた香桜は、子どもの頃によく遊んだ川まで一人で歩いていた。
そこで子犬が溺れているのが目に入り、助けるためいきなり川に飛び込んでしまう。
香桜は必死の力で子犬を岸にあげるも、そこで力尽きてしまい……
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
転生ガチャで悪役令嬢になりました
みおな
恋愛
前世で死んだと思ったら、乙女ゲームの中に転生してました。
なんていうのが、一般的だと思うのだけど。
気がついたら、神様の前に立っていました。
神様が言うには、転生先はガチャで決めるらしいです。
初めて聞きました、そんなこと。
で、なんで何度回しても、悪役令嬢としかでないんですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる