「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな

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悪役令嬢回避編

ヒロインって天使?

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「あっ、あのっ」

 後ろからかけられた、控えめな声に振り返る。
 鈴の鳴るような、澄んだ声。
うわー、ヒロインって声までヒロインなんだ。

「私のせいで申し訳ありません。入学式に遅れてしまいます。皆様、どうぞ行かれて下さい」

 そうだ。
乱入した後に、レイノルドまで現れたから忘れてたけど、ヒロイン頬を張られてたんだった。医務室行った方がいいかな。
 ご令嬢の力だから大したことはなさそうだけど、まだ少し赤い。

「医務室に参りましょう。まだ少し赤いですわ」

「だ、大丈夫です。私、丈夫ですから」

「駄目でしてよ?少し冷やした方がいいですわ」

「アニエス、どうしたの?」

 ヒロインの頬の具合を見ていると、この3年間で聞き慣れた声がした。

 振り返ると、マリウス殿下とクランがやって来る。

「マリ様、クラン」

 現れた王太子殿下と、公爵子息に、ご令嬢たちは赤くなったり青くなったりと大変である。

 この3年間のうちに、私はマリウス殿下のことを「マリ様」と呼ばされるようになり、殿下は私のことを「アニエス」と呼び捨てにする様になった。

 何故?と思ったけど、「婚約者なのですから、いいですよね?」と黒い笑顔で言われたので、頷いておいた。
 別に呼び方なんて何でもいい。

「レイノルド。僕の可愛い婚約者をいじめてないだろうね?」

「あー、ハイハイ。いじめるわけないでしょ。ちょっと面白い話をしてたから、聞かせてもらってただけだよ。僕、もう行くね。式に遅れるや。じゃあね、リリウム嬢」

 殿下の問いに、レイノルドはやれやれという顔でそう言うと、ヒラヒラと手を振って立ち去って行った。

 んー。教皇子息である侯爵子息のレイノルドと、王太子殿下であるマリウス様が顔見知りなのは当たり前として、レイノルドは殿下のこと苦手なのかな?

 だけど、引いてくれて良かった。
ヒロインを医務室に連れて行かないと・・・んん?もしかして、これ出会い?出会いイベント?
 医務室に連れてくの殿下に譲るべき?
でも、クランもいるし・・・

 どうしよう。
でも、殿下は新入生挨拶があるんだよね。

 オタオタと(でも表情には出ない。淑女教育の賜物だね)していたら、ツン!と袖口を後ろから引かれた。

「あの・・・リリウム様。お気遣いありがとうございます。でも、本当に大丈夫ですから。式に遅れますし、どうぞ先に行かれて下さい」

「姉上、何があったの?もしかして、この人たちに何か言われたの?」

 クランが、ご令嬢方をジロリと睨む。
うん。お姉ちゃんのことを思ってくれてるんだろうけど、ご令嬢相手にそんな目つきしちゃ駄目だよ。

「何でもないわ。さあ、貴女方も式にお行きなさい。次はありませんわよ?」

「「は、はいぃぃぃぃ!」」

 令嬢方は、殿下にカーテシーすらするのを忘れて、その場から逃げて行った。
 殿下もクランも、渋い顔をしているし、やれやれである。

「やれやれだな。さあ、愛しの婚約者殿。会場に向かおうか?」




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