「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな

文字の大きさ
上 下
11 / 128
悪役令嬢回避編

お姉様と呼ばれました

しおりを挟む
 
 リュウジには双子の兄のリュウイチがいる。
 ほとんど同じタイミングにてこの世に生を受けたというのに、僅差にて生まれながらに兄と弟という上下関係を押し付けられたリュウジ。
 だがそれは彼の屈辱にまみれた人生のほんのはじまりにすぎなかった。
 兄のリュウイチは容姿端麗で学業も運動も優秀。何ごともそつなくこなす優等生。毎年、バレンタインデーになると、家中がチョコレートのニオイで甘ったるくなるほどの人気者。
 弟のリュウジは容姿その他、すべてが平凡。学校の成績も赤点こそは取らないが、突出することもない。どこまでいっても可もなく不可もなく。バレンタインデー? 母親からの義理チョコしかもらったことがないよ状態。下駄箱にラブレターなんて都市伝説の類だと思っている。
 あまりにも対照的な双子。
 それゆえに周囲からはよく「リュウジはお母さんの腹の中で、リュウイチに栄養をとられすぎたんだ」なんぞとからかわれたものである。
 学年が同じである以上、どうしたってことあるごとに二人は比べられる。
 そしてその度にこう言われるのだ。

「あー、おまえ、ダメな方か」と。

 物心がついた頃から、ずっとみんなからこんなことを言われ続けているうちに、リュウジ自身も「自分は兄とちがって、ぜんぜんダメな奴なのだ」と考えるようになっていく。
 両親や親族たちですらもが、表面上はとりつくろっているものの、そうであったのだから抗うなんていう考えは、はなから思い浮かびもしなかった。
 リュウイチはいい子で、リュウジはふつう。
 光と影ですらない。
 光と道端に落ちてる石ころ。
 ではいつも褒められ期待のまなざしを一身に集めるリュウイチは、どうであったのかというと、これまたよく出来たお兄ちゃんであった。
 驕ることなく、兄として弟をたえず気遣う。
 おそらくは唯一、リュウジを双子の片割れとしてではなく、一人の人間として扱い、ちゃんと向き合い、接していたのが兄のリュウイチ。
 リュウジはそんな兄を尊敬しつつも、妬ましさも感じ、コンプレックスを拗らせつつも、どうしても嫌いになれない。
 対等に扱われるほどに、しんしんと心の内に降り積もり、ぶ厚い層となっていく劣等感。
 こんな、なんともいえない複雑な感情を抱いたまま、リュウジはふつうに成長していくことになる。

 この先もずっとそんな日常が続くのか……。
 絶望にも似た、諦めの心境にあったとき、異世界へと渡り勇者となったリュウジ。
 ギフトはタワーマスター。
 これはタワー型のダンジョンを形成し管理運営できる異能。タワー内限定にて世界を構築できるので、いわば亜空間のグレードダウン版。
 スキルは宝物錬成。
 何でも造れる便利なインチキ錬成とはちがい、金銀財宝のみを造りだせる。しかしこの能力には制約があった、それは自身のタワー内のみで錬成させることが可能というもの。
 神さまに呼ばれた際に、リュウジがこのギフトを選んだ理由は「なんとなくおもしろそう」だったから。ダンジョン経営とか、いかにもファンタジーらしいし。
 スキルに関しては、どうしてこれが発動したのかは当人にもわからない。だが制約があることからして、ギフトとセットだったのかもしれない。

 異世界に行けば、もう兄と比べられることもなく、新たにやり直せる。
 リュウジはそう考えていた。
 だが現実はちがった。
 召喚された先にて待っていたのは、またしても比較。
 同時期に召喚された勇者たちと見比べられて、品定めをされて、吟味の上に選別される。
 ちょうど戦争中であった彼の国にて求められていたのは、戦う術を持つ者。目の前の戦局を左右し、先陣に立って難局を打開できる者。
 設置型のリュウジの異能は、一部に高く評価こそはされたものの、現状の国が求めるチカラではなかった。活用次第では無限の富をもたらす打ち出の小槌だというのに、それを活かす余裕すらもなかったのである。
 戦えないごくつぶし。
 いつしかリュウジは勇者仲間たちからも孤立し、一人でいることが多くなっていく。
 異世界渡りの勇者として、周囲はそれなりに敬意は払ってくれるけれども、その瞳の奥にあったのは、かつて元の世界で自分に向けられていたものと同じであった。
 それを知ったリュウジは、何もかも放り出して逃げた。
 すっかり諦めていたところに提示された新たな世界と可能性。
 なのにそこもやはり同じだったとわかって、ついに彼の魂が悲鳴をあげたのである。
 どこをどう彷徨ったのかも忘れてしまった、ある日のこと。
 リュウジはベリドート国の荒地に流れ着く。
 そこで、ふと、思い出したのは自分のギフトとスキル。

「そういえばノットガルドへ来てから、まだ一度も試していなかったか」

 ずっとため込まれていた魔力や想いに比例するかのようにして、出現したのは千階層をも誇る超大な天空の塔。
 その塔の内部はリュウジの世界。
 タワーマスターの能力にて環境を整える作業に、彼は次第に夢中になって没頭していく。
 これがベリドート中を巻き込んだ試練の塔の誕生秘話である。

 勇者リュウジくんのわりと長いお話。
 これをわたしはグビグビお茶をのみながら聞いていた。
 そして彼の語りもひと段落ついたらしいので、率直な感想を口にした。

「赤点一個もなしで『ボクふつうだから』とかイヤミか? こちとら毎回、ニ三個が当たり前だってぇの。その都度、恥じも外聞もかなぐり捨てて、全力で先生に泣きつき媚びへつらって、追試やレポートや補習でどうにか生きてきたっていうのに……。ぜいたく言ってんじゃねえぞ、この野郎!」

 わたしの発言を受けて、リュウジくん「えー」
 ルーシーは「ふつうってムズカシイですよね」としみじみ。
 まったくもって青い目のお人形さんの言うとおり。
 毎回、テストのたんびに徹夜して頑張っても、ギリギリのわたしからすれば、赤点ゼロの学園生活とか充分に勝ち組。
 わたしだって一度くらい友だち相手に「ねえ、あんたテストどうだった?」「わたし? とりあえず赤点は回避かな」ぐらいの余裕しゃくしゃくな台詞を言いたかったよ。
 だが現実は「ヤッべー、完璧に山をハズしたぁ」だ。それどころか一度なんて「おまえ、もう、いっそカンニングでもしろよ。先生、見逃してやるから」なんて言われたことすらあるというのに。

「マジメに上ばっかり見てっからしんどいんだ。もっと下を見ろ、下を! 足下でにょろにょろしているダメな連中を眺めて、ほくそ笑み、溜飲をさげ、おおいにストレスを解消しろ。それで万事解決する」
「いや、それはさすがに人としてどうかと……」

 せっかく人生をオモチロおかしく過ごすコツを伝授してやったというのに、リュウジが不満を表明した。
 でもルーシーにはウケたらしく、お人形さんはカタカタ肩をふるわせていた。


しおりを挟む
感想 324

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

闇黒の悪役令嬢は溺愛される

葵川真衣
恋愛
公爵令嬢リアは十歳のときに、転生していることを知る。 今は二度目の人生だ。 十六歳の舞踏会、皇太子ジークハルトから、婚約破棄を突き付けられる。 記憶を得たリアは前世同様、世界を旅する決意をする。 前世の仲間と、冒険の日々を送ろう! 婚約破棄された後、すぐ帝都を出られるように、リアは旅の支度をし、舞踏会に向かった。 だが、その夜、前世と異なる出来事が起きて──!? 悪役令嬢、溺愛物語。 ☆本編完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。 ☆2025年3月4日、書籍発売予定です。どうぞよろしくお願いいたします。

処理中です...