「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな

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悪役令嬢回避編

そして王宮へ向かう

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 淑女教育に関しては、前世の記憶しかないけど、アニエスの体に染み付いている。

 だから、両親も、弟クランも、それから公爵家の使用人たちも、誰ひとりとしてアニエスの中身が29歳アラサー独身女性だと気付かない。

 水色のドレスを身に纏い、王宮に向かうために馬車に乗り込もうとする私に、クランが駆け寄ってくる。

「姉上。今日は僕も一緒に連れて行って下さい」

「あら?クラン。王宮に用があるの?」

「先日、マリウス殿下から、本をお借りするお約束をしていただいたのです」

 実際、目の前で見るクランは、記憶の中のクランよりもまだ幼く、だが中々の美少年ぶりを発揮していた。

 そして、アニエスを嫌っていない。

 今から3年の間に、クランとの仲を深めて、もうそれはブラコンでは?と思うほどに構い倒して、クランをシスコンにしてしまえば、ヒロインと出会っても攻略されないのではないか、と思う。

 私は、クランを見ても別に家族としての情も何も感じない。
 アラサーのお姉さんとしては、まだ幼さの残る男の子が、ちょっとカッコつけてるものの姉に甘えたいというのが透けて見えて、微笑ましいと思う程度である。

 だけど、アニエスとしての感情の中に、クランを家族として愛しんでいる気持ちがあるのも事実だ。

 だからー
私は一抹の不安を感じている。

 王太子と出会った時、私はアニエスの気持ちに引っ張られたりしないだろうか?

 嫌われたら死にたくなるほどの相手と出会ったら、王太子のことを好きだと思ってしまわないだろうか?

 ないとは思いたい。
少なくとも百合としてはない。大体、29歳アラサーが10歳の、いくら美形だとはいえ少年に懸想したら、それはショタコンである。

 私は恋愛に関して、年上だとか年下だとかにこだわりはないが、さすがに自分の子供でもおかしくない年齢の子供に懸想するつもりはない。

 つもりはないが、今現在、私の中にあるクランに対する気持ちは、大切な家族を思う親愛であることは間違いない。

 私は、山下百合であって、アニエス・リリウムでもあるのか、どちらの感情も存在しているのだ。

 アニエス自身の心はどうなったのだろう?
 一般的なライトノベルだと、融合したりするけど。

「姉上?どうかされましたか?ご気分でも?」

 ずっと黙って考え込んでいたからか、クランが心配そうに声をかけてきた。

 うーん、ヒロインに陥落さえしなきゃ、姉思いのいい子なのになぁ。

 私はクランににっこりと微笑み返した。

「ありがとう、クラン。大丈夫よ。そろそろお城に着くわね」

 馬車の窓から、某テーマパークのお城によく似た、ハイドランジア王城が見えた。
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