聖女の地位も婚約者も全て差し上げます〜LV∞の聖女は冒険者になるらしい〜

みおな

文字の大きさ
上 下
134 / 134

不自由と自由

しおりを挟む
「うわぁ、すっごい綺麗」

 あたり一面を埋め尽くす真っ白な花に、感嘆の声が漏れた。

「にゃー」

「あ。そうだよね、探さないと」

 クロに促されて、花畑に足を踏み入れる。

 この花は真っ白なのだが、変異種で花びらが青く色づくものがある。

 それが体の欠損部位を回復させることができるポーションの材料になるらしく、私はギルドの依頼でカルディア帝国の北の端までやって来たのだ。

 この依頼は、ミミさんから直接お願いされたものだ。

 各国に結界石を設置して、三年。
魔獣が結界内に入って来ることもなく、異常種もほとんど姿を消した。

 それでもたまに、自然に異常に強い魔獣が生まれることがある。

 そういうものにたまたま遭遇した冒険者が、大怪我を負うことがあるのだ。

 その花があれば、聖女の力を借りればポーションを作れるらしい。

 あの日集めた聖女たちは、驕ることなく、聖女としての務めを果たしてくれているようだ。

「にゃー!」

 私の肩から降りて、花畑を駆けていたクロの鳴き声に振り返る。

「クロ、どこ?」

「にゃにゃ」

 ガザガザと花をかき分けて、クロが姿を現す。

「あった?」

「にゃん」

 クロの道案内で花畑を進むと、真っ白な花の中にその花はあった。

「クロ、さすが」

「うにゃ」

 褒めたら「まぁね」って感じなのが可愛くて、私はクロの頭を撫でた。

「よし!依頼完了。戻ろう」

 クロを抱き上げて、転移魔法で王都まで戻る。

「ん?ああ、戻ったのか、ティア」

 転移先はシキの執務室。

 ここなら、転移でいきなり現れても驚く人はいないから。

「ただいま、シキ」

「アルヴァンが探していたぞ」

「え、何だろ」

「陛下、少しよろしい・・・あ、ティア様」

 噂をすれば、扉が開いてアルヴァン様が現れる。

「お探ししていたのですよ。また、そのような格好で。普段からドレスを・・・」

「私、ギルドに依頼品を届けに行って来ます!」

「ティア様!」

 アルヴァン様の言葉を遮るように、部屋から飛び出す。

 アルヴァン様の叱責の声と、シキの笑い声が後ろから聞こえた。

「ティアの好きにさせておけ。ドレスなど着なくても良い」

ですよ?いつまでもあのような冒険者の格好で!それに、ウェディングドレスはどうするんですか!慣れていないと、窮屈で式の間保ちませんよ」

 私は今まで聖女の祭服や、冒険者としてのショートパンツなどばかりで、ドレスなんて着たことがない。

 だから、アルヴァン様にはドレスを着て慣れるようにと言われてるんだけど。

「あら?ティアちゃん、いらっしゃい」

「ミミさん、依頼品を届けに来ました」

「さすがティアちゃんね。お茶でも飲んでく?」

「あ、いえ。用があるのでまた今度にします」

 これ以上逃げてたら、アルヴァン様の雷が落ちそう。

 転移で再び執務室に戻ったけど、アルヴァン様の姿はなかった。

「あれ?アルヴァン様は?」

「別の仕事を言いつけた。やりたいことをして良い、という約束だ。式にはドレスを着てもらわなければならないが、普段は好きな格好をしていれば良い」


 確かに冒険者は続けたいし、ドレスなんて着たことないけど・・・

「シキは・・・私のドレス姿とか興味ないっぽい」

「は?そんなわけないだろう。いや、綺麗なティアを他の男に見られるのは・・・しかし・・・」

「じゃあ何で、普段は着なくても良いって言うの?」

「ティアはずっと、自由に生きていたいと思っていたんだろう?皇后なんて面倒な立場にさせるんだ。式典や公の場は『皇后』の役割を果たしてもらわなければならないが、普段くらいはティアが望むように自由にしてもらいたい」

 確かに、皇后なんて面倒だし、なりたくないって思ってた。

「私は・・・みんなにシキの隣にいるのは私が相応しいって思って欲しい・・・から!ドレス合わして来る!」

 顔が絶対赤くなってる気がして、急いで部屋を出ようとしたのに、後ろからシキに抱きとめられた。

「そんな可愛いことを言って・・・ナイト、クロ、執務室ここはしばらく立ち入り禁止だ」

「「にゃん」」

 ナイトとクロが執務室から出て行く。ちゃんと猫・・・猫じゃないけど、専用の通用口が執務室にある。

 抱きしめられたまま、思わず笑ってしまった。

「どうした?」

「ううん。初めて会った時は、こんな気持ちになるなんて思わなかったなと思って。やなこと言うやつだなって思ったのに」

「あれは・・・反省している。ナイトからクロが一緒にいると聞いてたから、もしかしたらクロを攫った一人かもしれないと。妙に魔力も強かったし」

「ずっと自由に生きたいって思ってた。それは今も変わらないけど、マリアベルやリミア様カーティ様みたいに、誰かを好きでそばにいたいって気持ちもちょっと分かるようになった」

 大人になったってことなのかな。
恋なんて知らないまま、歳をとるのかもって思ってたけど。

「意識してもらえて、良かったよ」

「ッ!それはっ、シキがきっ、キスしたりするからっ・・・んっ!」

 抗議の声は、シキの唇に塞がれてしまう。

 こんなも悪くない。

 私はゆっくりと目を閉じた。




 







しおりを挟む
感想 108

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(108件)

アップルtea
2023.09.16 アップルtea

クロって結局どうなったの?
読みのがしてる?
ケットシーではない何かっていうのは?

2023.09.16 みおな

普通にティアラと暮らしてます。
元々はケットシーだったのですが、瀕死なのをティアラが聖女の力で癒したので、純粋なケットシーではなくなりました・・・が、そこのところはストーリーに影響がないので記述しませんでした。すみません🙇

解除
Vitch
2023.09.12 Vitch

教皇は『きむ・じょんいる』の転生者だと思います。
他人の骨をマリアベルの遺骨と偽るとかさぁ…

2023.09.12 みおな

そうだったのか。転生者だったのか。

解除
キノコ♪
2023.09.05 キノコ♪

ティア、何故シキの気持ちに気づかないかな?それとも気づいているけどスルーしているとか?少しでもティアと離れたくない男心を分かってあげて欲しいけど13歳じゃまだ無理かな?まぁ、皇后になる気無いから、シキの気持ちは無意識にスルーしてそう💦

2023.09.05 みおな

気付いてないわけじゃないんですが、まだ恋が分からないので応えようとしないだけなんですよね。
そもそも、自分の小さな嫉妬とかにも気付かないですからねぇ。
気付いたら、ちょっと応えるようになるかもです。

解除

あなたにおすすめの小説

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

【完結】もう結構ですわ!

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
 どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。  愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/29……完結 2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位 2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位 2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位 2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位 2024/09/11……連載開始

【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との
恋愛
第17回恋愛大賞、12位ありがとうございました。そして、奨励賞まで⋯⋯応援してくださった方々皆様に心からの感謝を🤗 「貴様とは婚約破棄だ!」⋯⋯な〜んて、聞き飽きたぁぁ! あちこちでよく見かける『使い古された感のある婚約破棄』騒動が、目の前ではじまったけど、勘違いも甚だしい王子に笑いが止まらない。 断罪劇? いや、珍喜劇だね。 魔力持ちが産まれなくて危機感を募らせた王国から、多くの魔法士が産まれ続ける聖王国にお願いレターが届いて⋯⋯。 留学生として王国にやって来た『婚約者候補』チームのリーダーをしているのは、私ロクサーナ・バーラム。 私はただの引率者で、本当の任務は別だからね。婚約者でも候補でもないのに、珍喜劇の中心人物になってるのは何で? 治癒魔法の使える女性を婚約者にしたい? 隣にいるレベッカはささくれを治せればラッキーな治癒魔法しか使えないけど良いのかな? 聖女に聖女見習い、魔法士に魔法士見習い。私達は国内だけでなく、魔法で外貨も稼いでいる⋯⋯国でも稼ぎ頭の集団です。 我が国で言う聖女って職種だからね、清廉潔白、献身⋯⋯いやいや、ないわ〜。だって魔物の討伐とか行くし? 殺るし? 面倒事はお断りして、さっさと帰るぞぉぉ。 訳あって、『期間限定銭ゲバ聖女⋯⋯ちょくちょく戦闘狂』やってます。いつもそばにいる子達をモフモフ出来るまで頑張りま〜す。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結まで予約投稿済み R15は念の為・・

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。