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思ったより性に合っている〜カタパルト視点〜

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「カーター、もう帰るのか?」

 同僚に声をかけられて、僕は足を止めた。

「うん。今日はマリーの誕生日なんだ。帰りにケーキを買おうと思って」

「へぇ、それはめでたいな。じゃあ、これ、ケーキ代の足しにしろよ」

 小銀貨をひとつ投げてよこす同僚に、素直に礼を言った。

「ありがとう」

 小銀貨と、毎日少しずつ貯めた小銭で、マリアベルの好きなケーキを買えそうだ。

 僕とマリアベルは、グレイ王国の離宮で母上と一緒に暮らしている。

 ただし、平民としてだ。
僕は騎士見習いとして、マリアベルは侍女見習いとして、働くようになった。

 最初の一ヶ月は酷かった。
僕は筋肉痛と小さな傷だらけ。マリアベルはカップを片手で足りないくらい割った。

 だけど、初めての給金をもらえる頃には、僕は筋肉痛にもならずに働けるようになったし、マリアベルは紅茶を美味しく淹れることができるようになった。

 シンクレア王国で父上と教皇が、魔獣を生み出した極悪人として民衆から責められているそうだ。

 檻の中で石をぶつけられているとか。

 だから僕もマリアベルも、今までの自分を捨てて新たに平民のカーターとマリーとなった方がいいとカルディア帝国の皇帝陛下に言われた。

 僕たちはそれを受け入れた。
あの時に僕もマリアベルも、死んでいておかしくなかった。

 だから、あの時死んだと思えば、平民になることも名前が変わることも何でもない。

 マリアベルが生きてくれている。
それだけで、どんなことでもやれると思った。

「ただいま帰りました。ご苦労様です」

「おかえりなさい。お疲れ様でした」

 離宮の門番と挨拶を交わす。

 王族だった頃、こんなふうに誰かに挨拶したことがあっただろうか。

 こんなふうに誰かを気遣ったことがあっただろうか。

 平民として暮らすようになって、人に親切にされること、気遣われること、心配されること、喜んでもらえること、色んなことを知った気がする。

「カーター、おかえりなさい」

「ただいま、マリー。お誕生日おめでとう。好きなケーキ買ってきたよ」

「嬉しい」

 王太子や公爵令嬢だった頃、望めば毎日のように食べることが出来た、小さなケーキ。

 今の僕は、見習い給金の中から少しずつ貯めて、やっと買うことが出来る。

「お茶を淹れるわ。一緒に食べましょう?」

 二人で分ければ、ほんの数口で食べ終わるケーキの美味しさを、僕たちはようやく知ることが出来た。

 元の僕らを知っている人から見れば、ままごとのように見えるかもしれない。

 でも、汗を流しながら働いて、小さなケーキを分け合って食べる幸せは、意外と性に合っている気がした。


 
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