132 / 134
思ったより性に合っている〜カタパルト視点〜
しおりを挟む
「カーター、もう帰るのか?」
同僚に声をかけられて、僕は足を止めた。
「うん。今日はマリーの誕生日なんだ。帰りにケーキを買おうと思って」
「へぇ、それはめでたいな。じゃあ、これ、ケーキ代の足しにしろよ」
小銀貨をひとつ投げてよこす同僚に、素直に礼を言った。
「ありがとう」
小銀貨と、毎日少しずつ貯めた小銭で、マリアベルの好きなケーキを買えそうだ。
僕とマリアベルは、グレイ王国の離宮で母上と一緒に暮らしている。
ただし、平民としてだ。
僕は騎士見習いとして、マリアベルは侍女見習いとして、働くようになった。
最初の一ヶ月は酷かった。
僕は筋肉痛と小さな傷だらけ。マリアベルはカップを片手で足りないくらい割った。
だけど、初めての給金をもらえる頃には、僕は筋肉痛にもならずに働けるようになったし、マリアベルは紅茶を美味しく淹れることができるようになった。
シンクレア王国で父上と教皇が、魔獣を生み出した極悪人として民衆から責められているそうだ。
檻の中で石をぶつけられているとか。
だから僕もマリアベルも、今までの自分を捨てて新たに平民のカーターとマリーとなった方がいいとカルディア帝国の皇帝陛下に言われた。
僕たちはそれを受け入れた。
あの時に僕もマリアベルも、死んでいておかしくなかった。
だから、あの時死んだと思えば、平民になることも名前が変わることも何でもない。
マリアベルが生きてくれている。
それだけで、どんなことでもやれると思った。
「ただいま帰りました。ご苦労様です」
「おかえりなさい。お疲れ様でした」
離宮の門番と挨拶を交わす。
王族だった頃、こんなふうに誰かに挨拶したことがあっただろうか。
こんなふうに誰かを気遣ったことがあっただろうか。
平民として暮らすようになって、人に親切にされること、気遣われること、心配されること、喜んでもらえること、色んなことを知った気がする。
「カーター、おかえりなさい」
「ただいま、マリー。お誕生日おめでとう。好きなケーキ買ってきたよ」
「嬉しい」
王太子や公爵令嬢だった頃、望めば毎日のように食べることが出来た、小さなケーキ。
今の僕は、見習い給金の中から少しずつ貯めて、やっと買うことが出来る。
「お茶を淹れるわ。一緒に食べましょう?」
二人で分ければ、ほんの数口で食べ終わるケーキの美味しさを、僕たちはようやく知ることが出来た。
元の僕らを知っている人から見れば、ままごとのように見えるかもしれない。
でも、汗を流しながら働いて、小さなケーキを分け合って食べる幸せは、意外と性に合っている気がした。
同僚に声をかけられて、僕は足を止めた。
「うん。今日はマリーの誕生日なんだ。帰りにケーキを買おうと思って」
「へぇ、それはめでたいな。じゃあ、これ、ケーキ代の足しにしろよ」
小銀貨をひとつ投げてよこす同僚に、素直に礼を言った。
「ありがとう」
小銀貨と、毎日少しずつ貯めた小銭で、マリアベルの好きなケーキを買えそうだ。
僕とマリアベルは、グレイ王国の離宮で母上と一緒に暮らしている。
ただし、平民としてだ。
僕は騎士見習いとして、マリアベルは侍女見習いとして、働くようになった。
最初の一ヶ月は酷かった。
僕は筋肉痛と小さな傷だらけ。マリアベルはカップを片手で足りないくらい割った。
だけど、初めての給金をもらえる頃には、僕は筋肉痛にもならずに働けるようになったし、マリアベルは紅茶を美味しく淹れることができるようになった。
シンクレア王国で父上と教皇が、魔獣を生み出した極悪人として民衆から責められているそうだ。
檻の中で石をぶつけられているとか。
だから僕もマリアベルも、今までの自分を捨てて新たに平民のカーターとマリーとなった方がいいとカルディア帝国の皇帝陛下に言われた。
僕たちはそれを受け入れた。
あの時に僕もマリアベルも、死んでいておかしくなかった。
だから、あの時死んだと思えば、平民になることも名前が変わることも何でもない。
マリアベルが生きてくれている。
それだけで、どんなことでもやれると思った。
「ただいま帰りました。ご苦労様です」
「おかえりなさい。お疲れ様でした」
離宮の門番と挨拶を交わす。
王族だった頃、こんなふうに誰かに挨拶したことがあっただろうか。
こんなふうに誰かを気遣ったことがあっただろうか。
平民として暮らすようになって、人に親切にされること、気遣われること、心配されること、喜んでもらえること、色んなことを知った気がする。
「カーター、おかえりなさい」
「ただいま、マリー。お誕生日おめでとう。好きなケーキ買ってきたよ」
「嬉しい」
王太子や公爵令嬢だった頃、望めば毎日のように食べることが出来た、小さなケーキ。
今の僕は、見習い給金の中から少しずつ貯めて、やっと買うことが出来る。
「お茶を淹れるわ。一緒に食べましょう?」
二人で分ければ、ほんの数口で食べ終わるケーキの美味しさを、僕たちはようやく知ることが出来た。
元の僕らを知っている人から見れば、ままごとのように見えるかもしれない。
でも、汗を流しながら働いて、小さなケーキを分け合って食べる幸せは、意外と性に合っている気がした。
63
お気に入りに追加
2,557
あなたにおすすめの小説
聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
ふしだらな悪役令嬢として公開処刑される直前に聖女覚醒、婚約破棄の破棄?ご冗談でしょ(笑)
青の雀
恋愛
病弱な公爵令嬢ビクトリアは、卒業式の日にロバート王太子殿下から婚約破棄されてしまう。病弱なためあまり学園に行っていなかったことを男と浮気していたせいだ。おまけに王太子の浮気相手の令嬢を虐めていたとさえも、と勝手に冤罪を吹っかけられ、断罪されてしまいます。
父のストロベリー公爵は、王家に冤罪だと掛け合うものの、公開処刑の日時が決まる。
断頭台に引きずり出されたビクトリアは、最後に神に祈りを捧げます。
ビクトリアの身体から突然、黄金色の光が放たれ、苛立っていた観衆は穏やかな気持ちに変わっていく。
慌てた王家は、処刑を取りやめにするが……という話にする予定です。
お気づきになられている方もいらっしゃるかと存じますが
この小説は、同じ世界観で
1.みなしごだからと婚約破棄された聖女は実は女神の化身だった件について
2.婚約破棄された悪役令嬢は女神様!? 開国の祖を追放した国は滅びの道まっしぐら
3.転生者のヒロインを虐めた悪役令嬢は聖女様!? 国外追放の罪を許してやるからと言っても後の祭りです。
全部、話として続いています。ひとつずつ読んでいただいても、わかるようにはしています。
続編というのか?スピンオフというのかは、わかりません。
本来は、章として区切るべきだったとは、思います。
コンテンツを分けずに章として連載することにしました。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです【完結】
小平ニコ
ファンタジー
「お姉様、よくも私から夢を奪ってくれたわね。絶対に許さない」
私の妹――シャノーラはそう言うと、計略を巡らし、私から聖女の座を奪った。……でも、私は最高に良い気分だった。だって私、もともと聖女なんかになりたくなかったから。
退職金を貰い、大喜びで国を出た私は、『真の聖女』として国を守る立場になったシャノーラのことを思った。……あの子、聖女になって、一日の休みもなく国を守るのがどれだけ大変なことか、ちゃんと分かってるのかしら?
案の定、シャノーラはよく理解していなかった。
聖女として役目を果たしていくのが、とてつもなく困難な道であることを……
【完結】「冤罪で処刑された公爵令嬢はタイムリープする〜二度目の人生は殺(や)られる前に殺(や)ってやりますわ!」
まほりろ
恋愛
【完結しました】
アリシア・フォスターは第一王子の婚約者だった。
だが卒業パーティで第一王子とその仲間たちに冤罪をかけられ、弁解することも許されず、その場で斬り殺されてしまう。
気がつけば、アリシアは十歳の誕生日までタイムリープしていた。
「二度目の人生は|殺《や》られる前に|殺《や》ってやりますわ!」
アリシアはやり直す前の人生で、自分を殺した者たちへの復讐を誓う。
敵は第一王子のスタン、男爵令嬢のゲレ、義弟(いとこ)のルーウィー、騎士団長の息子のジェイ、宰相の息子のカスパーの五人。
アリシアは父親と信頼のおけるメイドを仲間につけ、一人づつ確実に報復していく。
前回の人生では出会うことのなかった隣国の第三皇子に好意を持たれ……。
☆
※ざまぁ有り(死ネタ有り)
※虫を潰すように、さくさく敵を抹殺していきます。
※ヒロインのパパは味方です。
※他サイトにも投稿しています。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
※本編1〜14話。タイムリープしたヒロインが、タイムリープする前の人生で自分を殺した相手を、ぷちぷちと潰していく話です。
※番外編15〜26話。タイムリープする前の時間軸で、娘を殺された公爵が、娘を殺した相手を捻り潰していく話です。
2022年3月8日HOTランキング7位! ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる