聖女の地位も婚約者も全て差し上げます〜LV∞の聖女は冒険者になるらしい〜

みおな

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マリアベルの思い

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「シキ。私はマリアベルの精神に語りかけることに集中します。誰か来ないか、警戒しておいて下さい。対処もお任せします」

 シキにそう頼むと、私はマリアベルに集中した。

 もし教皇がやって来ても、シキなら大丈夫だと思う。

 目を瞑って、眠る魔獣に手を翳す。
より深いところに潜るような感覚で『マリアベル』を探す。

 ドロリとした、恨みとか悲しみとか悔しさとか、そんなものが渦巻いてあたりを満たしている気がする。

(魔獣にもそういう感情があるのかな。ドラゴンの場合は、傲慢さはあったけど)

 タールの海を歩いている感覚だ。
進み辛さを感じるけど、少し聖力で自分の周囲を覆うように意識すると抵抗が消えた。

(実体じゃないからこそ?聖力が効くのってありがたいわ)

 しばらく辺りを探したあと、この精神世界の中心を目指すことにする。

 魔獣そのものの精神なのか、薄暗い世界だ。

 そんな中、小さな電球程度の・・・弱々しい光が見えた。

(あれか!)

 様子を伺いながら、近づいて行く。

 ぼんやりとした光の中に、膝を抱えて丸まる子供の姿が見える。

 三歳くらいの子供だ。
顔を埋めているから表情は見えないけど、ピンク色の髪は判別出来た。

「マリアベル?」

「・・・」

「返事をして?マリアベル」

「・・・」

 顔を上げようともしない。
名前を呼んだ一瞬だけピクリと動いたけど。

 これは・・・ほぼほぼ消滅しかかっている?

 反応してくれなきゃ、どうすることもできない。

「マリアベル。カタパルトと会えなくてもいいの?」

「・・・カタ・・・ト・・・」

「そう、カタパルト。彼は貴女のために父親と教皇を殺して、死ぬつもりだよ?いいの?彼が死んでしまっても」

 フルフルと震えるように、幼子が顔を上げる。

 ピンク色の瞳が、あたりを見渡すように動いたあと、私でピタリと止まった。

「ティ・・・アラ」

「マリアベル、ひとつだけ答えて?黒猫をどうして傷つけたの?」

「黒・・・猫・・・、悔しかった。ティアラの力には届かなく、て。何、か壊して、やろうと・・・思って、部屋に入った、ら猫が・・・」

 辿々しく呟かれる内容は、想像した通りだった。

 やっぱり私への腹いせか。

「・・・バチ・・が当たった、の。だか、らもう・・・かた、パルト様、には会え、ない・・・ティ、アラ、教皇は何、人も聖女、を魔、獣に、変えて、る。早、く逃げ・・・たほう、がいい」

 私は小さくため息を吐いた。

 クロ、ごめんね。帰ったらいっぱい謝るから、マリアベルを助けること、許してね。

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