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変わった理由

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「・・・僕には婚約者がいる」

 ポツリと呟いた言葉に、私とシキは顔を見合わせる。

 もう公爵令嬢、いや人間でマリアベルのことを思い浮かべる。

「王族ならそうだろうな」

 確かにそれが一般的だと思う。
皇帝陛下でありながら、妻どころか婚約者もいないシキが特異なんだ。

「元々、僕はシンクレア王国筆頭聖女と婚約していた。僕の意思ではなく、国として決められたことだ。でも、僕は聖女と婚約破棄した」

「・・・理由を聞いてもいいか?」

「ほとんど会うことのなかった聖女を好きだと思ったことがない。昔から交流のあった公爵家の令嬢のことを好きだったからだ」

「ハァ。それだとしても王太子として、婚約破棄は間違いだな。国王が決めた婚約を勝手に、当人とはいえ破棄するのは間違いだ」

 確かに、私としては婚約破棄も国外追放もありがたかったけど、カタパルトのやったことは王族として間違いだとは思う。

 でも、その間違いにカタパルトが気付くことなんてないと思ってた。

「分かってる・・・いや、僕は分かっていなかった。ただ、マリアベルと婚約したくて、公爵令嬢なら父上たちも文句ないだろうって。でも、父上たちは許してくれなくて、ティアラを、聖女を連れ戻せって・・・そして僕はカルディア帝国に行ったんだ。ティアラがいると思って」

「ああ。あれは我が国の魔道具だがな」

「それで、カルディアから戻る途中で馬車が襲われて・・・そのあたりのことは言わなくても知ってるよな。あの後、城に戻ったんだ」

 うん。そこまでは分かる。
あの時点で、カタパルトは多少は大人しくなってたけど、それでも自分が王族で王太子だという傲慢さはあったはず。

「父上に会う前に、マリアベルに会いたくて、公爵家なら王宮に避難しているだろうと思って、会いに行ったんだ。だけど、ガーディナー公爵も夫人も・・・」

「何があった?」

「首を吊って死んだって・・・つかまえた使用人に聞いたら、マリアベルが死んで・・・絶望した夫妻が自殺したって」

 死んだ?
ああ。あの大怪我を見て、聖女として使えなくなったから魔獣化しようと教皇が死んだと伝えたということ?

「嘘だと思った。だから父上にも聞いたんだ。そしたら、あんまりくだらない事を言うなら、お前も同じ目にあわせるぞって。それは、父上がマリアベルや公爵夫妻に何かしたということだろ?父上はその後誤魔化してたけど、信じられないと思った。だから・・・教皇の跡をつけたんだ」



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