110 / 134
変わった理由
しおりを挟む
「・・・僕には婚約者がいる」
ポツリと呟いた言葉に、私とシキは顔を見合わせる。
もう公爵令嬢、いや人間でなくなったマリアベルのことを思い浮かべる。
「王族ならそうだろうな」
確かにそれが一般的だと思う。
皇帝陛下でありながら、妻どころか婚約者もいないシキが特異なんだ。
「元々、僕はシンクレア王国筆頭聖女と婚約していた。僕の意思ではなく、国として決められたことだ。でも、僕は聖女と婚約破棄した」
「・・・理由を聞いてもいいか?」
「ほとんど会うことのなかった聖女を好きだと思ったことがない。昔から交流のあった公爵家の令嬢のことを好きだったからだ」
「ハァ。それだとしても王太子として、婚約破棄は間違いだな。国王が決めた婚約を勝手に、当人とはいえ破棄するのは間違いだ」
確かに、私としては婚約破棄も国外追放もありがたかったけど、カタパルトのやったことは王族として間違いだとは思う。
でも、その間違いにカタパルトが気付くことなんてないと思ってた。
「分かってる・・・いや、僕は分かっていなかった。ただ、マリアベルと婚約したくて、公爵令嬢なら父上たちも文句ないだろうって。でも、父上たちは許してくれなくて、ティアラを、聖女を連れ戻せって・・・そして僕はカルディア帝国に行ったんだ。ティアラがいると思って」
「ああ。あれは我が国の魔道具だがな」
「それで、カルディアから戻る途中で馬車が襲われて・・・そのあたりのことは言わなくても知ってるよな。あの後、城に戻ったんだ」
うん。そこまでは分かる。
あの時点で、カタパルトは多少は大人しくなってたけど、それでも自分が王族で王太子だという傲慢さはあったはず。
「父上に会う前に、マリアベルに会いたくて、公爵家なら王宮に避難しているだろうと思って、会いに行ったんだ。だけど、ガーディナー公爵も夫人も・・・」
「何があった?」
「首を吊って死んだって・・・つかまえた使用人に聞いたら、マリアベルが死んで・・・絶望した夫妻が自殺したって」
死んだ?
ああ。あの大怪我を見て、聖女として使えなくなったから魔獣化しようと教皇が死んだと伝えたということ?
「嘘だと思った。だから父上にも聞いたんだ。そしたら、あんまりくだらない事を言うなら、お前も同じ目にあわせるぞって。それは、父上がマリアベルや公爵夫妻に何かしたということだろ?父上はその後誤魔化してたけど、信じられないと思った。だから・・・教皇の跡をつけたんだ」
ポツリと呟いた言葉に、私とシキは顔を見合わせる。
もう公爵令嬢、いや人間でなくなったマリアベルのことを思い浮かべる。
「王族ならそうだろうな」
確かにそれが一般的だと思う。
皇帝陛下でありながら、妻どころか婚約者もいないシキが特異なんだ。
「元々、僕はシンクレア王国筆頭聖女と婚約していた。僕の意思ではなく、国として決められたことだ。でも、僕は聖女と婚約破棄した」
「・・・理由を聞いてもいいか?」
「ほとんど会うことのなかった聖女を好きだと思ったことがない。昔から交流のあった公爵家の令嬢のことを好きだったからだ」
「ハァ。それだとしても王太子として、婚約破棄は間違いだな。国王が決めた婚約を勝手に、当人とはいえ破棄するのは間違いだ」
確かに、私としては婚約破棄も国外追放もありがたかったけど、カタパルトのやったことは王族として間違いだとは思う。
でも、その間違いにカタパルトが気付くことなんてないと思ってた。
「分かってる・・・いや、僕は分かっていなかった。ただ、マリアベルと婚約したくて、公爵令嬢なら父上たちも文句ないだろうって。でも、父上たちは許してくれなくて、ティアラを、聖女を連れ戻せって・・・そして僕はカルディア帝国に行ったんだ。ティアラがいると思って」
「ああ。あれは我が国の魔道具だがな」
「それで、カルディアから戻る途中で馬車が襲われて・・・そのあたりのことは言わなくても知ってるよな。あの後、城に戻ったんだ」
うん。そこまでは分かる。
あの時点で、カタパルトは多少は大人しくなってたけど、それでも自分が王族で王太子だという傲慢さはあったはず。
「父上に会う前に、マリアベルに会いたくて、公爵家なら王宮に避難しているだろうと思って、会いに行ったんだ。だけど、ガーディナー公爵も夫人も・・・」
「何があった?」
「首を吊って死んだって・・・つかまえた使用人に聞いたら、マリアベルが死んで・・・絶望した夫妻が自殺したって」
死んだ?
ああ。あの大怪我を見て、聖女として使えなくなったから魔獣化しようと教皇が死んだと伝えたということ?
「嘘だと思った。だから父上にも聞いたんだ。そしたら、あんまりくだらない事を言うなら、お前も同じ目にあわせるぞって。それは、父上がマリアベルや公爵夫妻に何かしたということだろ?父上はその後誤魔化してたけど、信じられないと思った。だから・・・教皇の跡をつけたんだ」
51
お気に入りに追加
2,581
あなたにおすすめの小説
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね
星里有乃
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』
悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。
地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……?
* この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。
* 2025年2月1日、本編完結しました。予定より少し文字数多めです。番外編や後日談など、また改めて投稿出来たらと思います。ご覧いただきありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる