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シンクレア王国

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 庇いようのない馬鹿だけど、これでも一国の王太子。

 いや、まぁ王太子だからこの馬鹿さ加減が問題なんだけど、それはとりあえずこっち置いといて。

 今回は王太子という名分が役にたつ。

「じゃあ、テ・・・イア!頼む」

 ティアと言いかけて、さすがにティアと呼べばまたティアラではないかと言い出すと思ったのだろう。

 イアと呼び直したシキが、こちらへ向き替える。

 ちなみにこのやりとりの間に、私は認識阻害の魔法を自分にかけた。

 使ったことがないし、初めて試してみたのであれだけど、効果はまぁまぁのようだ。

 相手が馬鹿なのもあるけど、髪は黒いけど、ティアラではないか~的な顔をしている。

 馬鹿が相手で本当に良かった。

 シキは片眉をちょっと上げたけど、何も言わなかった。

 よく知ってる人間が見れば、分かる範囲なのかもしれない。

 これは教皇には会わないようにしないと。

「わかりました。では、転移しますから・・・陛下の手に触れてください」

 ここは、カルディア帝国の皇帝陛下を呼び捨てで呼ぶよりも、陛下と呼んで部下だと思わせた方がいいだろう。

 そして、私はこの馬鹿に触れたくないので、シキに緩衝材になってもらう。

 シキも異論はないみたいで、左手をカタパルトに差し出す。

 カタパルトがそれを掴んだのを確認してから、私はシキの右腕に触れ、転移した。

 移動先は、教会の祈りの間・・・の控え室だ。

 聖女たちが結界石を作らされているとしたら、おそらく祈りの間だろう。

 私は行ったことのある場所になら転移できるから、王宮ではなく教会に転移した。

 なるべく最短で、聖女たちを集めてシンクレア王国から出たい。

 転移し終えると、すぐに私とシキに隠蔽魔法をかける。

 すぐに姿を消すけど、いなくなるわけではないから逃げたら魔獣に差し出す!とカタパルトには釘を刺してある。

 姿の消えた私たちに、カタパルトは一瞬キョロキョロするけど、シキがその肩に触れると、ビクリとした。

 隠蔽魔法は姿こそ隠れるけど、物を通り抜けることも出来ないし、触れればそこにいるのはバレてしまう。

 なので前もっての指示通り、カタパルトにドアを開けさせる。

 やっぱり、祈りの魔の前に王宮の騎士が三人ほどいた。

(少ないな)

 シキの小声に、カタパルトが答える。

「大半は王宮で、父上を守っているのだろう」

 ああ。なるほどね。
結界石は作っていても、私の結界のようなものは作れない。

 なら、騎士は手放せないわけだ。

 カタパルトの多少不満げな様子も、少しは分かる。

 自分はこんなに危険な目にあったのに、父親は守られていることが不満なのだろう。

 でもそれは仕方ない。
その事態を引き起こしたのはカタパルト本人なのだから。

 そういえば、あの公爵令嬢はどうしたんだろう?
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