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すっごい馬鹿じゃん?

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「ティアラか?」

 その声に、何でこの人がここにいるんだとため息が出た。

「人違いです」

「ティアラ!王宮にぞ!さっさと結界を張るんだ!」

「ですから人違いです」

 私に近寄ろうとするシンクレア王国王太子カタパルトの前に、シキが立ち塞がる。

「おまっ・・・えは!」

「彼女はティアラという名ではない。私の連れに近付かないでもらおうか」

「なっ、にを・・・そんな黒髪の女、他には・・・」

「やれやれ。シンクレア王国王太子は、世界の女性全てを知っている気なのか?黒髪黒目の女性など、我が国にもいるし、アーバンラマには多数いる」

 シキの背中に、背合わせでもたれかかった。

 シキが一緒に行くと言ったのは、こういう事態のためか。

 別に私ひとりでも、カタパルトから逃げることは出来る。

 それこそ、転移魔法でも何でも使えばいいのだから。

 それを理解った上で、シキはついて来た。

 その気持ちが、何だかくすぐったいような、ぽかぽかした気持ちにさせた。

「本当に、ティアラではないのか?」

「ああ。彼女は魔法使いだ。そのティアラ嬢は魔法を使えるのか?」

「いや、ティアラは聖女で魔法は・・・そうか。魔法使いなのか・・・」

 背中で繰り広げられる会話に、いやいやお前大丈夫か?と言いたくなる。

 いや、突っ込んではいけない。
ここで突っ込んでは全てが水の泡だ。

 でも、仮にも婚約者だった人間の顔を、こんなにあっさりと忘れる?声だって最後の時に会話したでしょうに。

「分かってくれたのならいいが。それよりもシンクレア王国王太子殿下が、こんなところで何をしているんだ?」

「え、あ、ああ。ちょっとグレイ王国に行っていて・・・帰ろうにもものすごい魔獣で、馬車が襲われて。それでもう一度グレイ王国に戻ろうとしていたらすごい音がしたので、見に来たのだ。もしかして、皇帝陛下が倒した・・・のか?」

 横柄な態度で牢に入れられただろうに、カタパルトの言葉にシキへの敬意も・・・恐怖もない。

 うーん、ある意味大物なのかな。
しかし、こんなところで何をしてたのかと思ったら、魔獣に襲われて王都に戻れないでいたのか。

 送ってやる義理はないし、王都に近づきたくもないけど、いつまでもグレイ王国でチョロチョロされても困るし、どうしよう。

「ば、馬車で送ってくれないか?あれ、馬車は・・・それに護衛は?」

「はぁ。何故、私がお前を送らなばならんのだ。それに馬車はない。魔法使いだからな、転移魔法で移動している」

「て、転移?馬車がない?」

 愕然とした声のカタパルトに、どうするべきか、悩む。

 ああ、そうだ。
条件をのませる代わりに、王都まで転移魔法で連れてくとかどうだろう。

 私はシキの背中をツンツンとつつく。

 振り返ったシキの耳元に、その提案を小声で伝えた。
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