聖女の地位も婚約者も全て差し上げます〜LV∞の聖女は冒険者になるらしい〜

みおな

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猫、ではない?

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「まず最初に、ナイトもだがクロは普通の猫ではない」

 王宮に入り、多分だけど、皇帝陛下の執務室らしき場所まで連れてこられ、アルヴァン様が扉のところで誰かからお茶のセットを受け取り、扉が完全に閉められたところで、やっと陛下はフードを外した。

 漆黒の、少し長めの前髪から、深紅の瞳が私を見ていた。

 シキ・カルディア皇帝陛下。
私の記憶が正しければ、彼は両親を反乱軍に殺されている。

 その反乱を十五歳という年齢で収束させた、稀代の魔法使い。

 それが私の知っているカルディア皇帝陛下だ。

 その彼の言った言葉に首を傾げた。
猫ではない?猫にしか見えないけど。

「ケット・シーだ」

 ケット・シーとは妖精猫という存在だ。

 二本足で歩き、言語と魔法を操る『猫の貴族』と呼ばれる存在。

 この世界には魔法もあるし魔物もいるし、妖精も精霊もいる。

 だから、クロがケット・シーだと言われても、そんなこともあるかな、と納得はするんだけど。

 そのケット・シーの子供が、何故遠く離れたシンクレア王国に?

「ナイトの妻、つまりクロの母親が連れ去られたんだ。母猫は・・・」

「・・・」

 私は静かに首を横に振った。
私が見た時には母猫らしき猫は見えなかった。

 教会の裏庭で死にそうになっていた黒の子猫。それがクロだった。

 どうにか治癒魔法で回復させ、食事を与え、元気になった頃にクロが襲われる事件があった。

 アレが私に、シンクレア王国を見限らせる原因だったと思う。

 きっかけは王太子の婚約破棄と国外追放だったけど、あれがなくてもクロの容態が安定したら出て行くつもりだった。

「そうか。クロは覚えているか?」

 皇帝陛下の問いに、黒がその金色の瞳を瞬かせた。

 私はクロと会話をしたことはないけど、ケット・シーは言葉を話すと聞いたことがある。

 まぁ、精霊とも意思の疎通は出来るから、話してもおかしくないとは思うけど・・・

 興味からマジマジとクロを見つめた。

「にゃー」

 がくっ。

「うん?まだ幼いから話せない?ナイト、尋ねてみてくれ」

『・・・・・・』

 ナイト、クロの父親がしばらくクロを見つめてから、その首を横に振った。

『・・・クロ、のケット・シーとしての能力はほとんどなくなっている』

「は?どういうことだ?」

『ここに戻るまでに、何度も話しかけてみた。だが、ケット・シーとしての意思疎通すら出来なかった。妖精としての力を失ったというよりは、別の何かに変化したような気がする』

 ナイトはその視線を私に向けた。

『理由に心当たりは?』

 心当たり、心当たりしかない気がする。

 

 
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