22 / 134
襲撃
しおりを挟む
ガタン!
大きな音を立てて、馬車が揺れる。
「きゃあ!」
乗っていたご婦人が悲鳴をあげ、男の人たちは何事かと声を上げた。
私は懐のクロが出ないように、声をかける。
「クロ、出ちゃ駄目だよ」
「みー」
小声で応えたクロの頭を撫でて、意識を馬車の外に向けた。
ちなみにクロは、上着の下に大きなポケット付きの服を着ているんだけど、そのポケットの中にいる。
これは、宿屋の女将さんが作ってくれた。
それまではクロを布で包むようにして、体に布を縛り付けたり、ポーチに入れたりしてたんだけど、これなら落ちる心配もないし、狭いポーチの中で我慢してもらわなくても済む。
馬車の外では、怒鳴るような男たちの声がしていて、馬車の中のみんなは怯えたように身を寄せ合っていた。
馬車に乗った時は、私に一人なのかと気遣ってくれていた女性も、さすがに今はそんな余裕はないようだ。
私は、斜め向かいに座る人物に視線を向けた。
フードを深く被っているから、容姿はわからないけど、体つきから見てまだ若い男性だと思う。
隣に座る二十代後半くらいの男性は、多分騎士か何かだろう。
雰囲気が、シンクレア王国で見ていた騎士たちのソレと似ている。
もっとも聖女の力に頼りっきりで、形ばかりの訓練しかしていなかった騎士とは、その力量は天地の差がありそうだけど。
隣の少年だか青年だか分からないけど、フードの男性は隣の騎士の護衛対象のようだ。
そして、外の男たちの目的は彼らだと思う。
ボソボソと小声で会話する内容からすると、彼らは襲撃があることを察していたようだ。
聞こえないように小声で、しかも他国語を使っているけど、あいにくと私は地獄耳である。
でもって、お馬鹿な婚約者のために散々色んな勉強までやらされたので、簡単な会話くらいなら理解出来る。
というか、襲撃があると分かってるなら、乗合馬車なんかに乗るんじゃない。
他の人に被害があったら、どう責任取るつもりよ。
護衛が付いてることといい、多分お貴族様なんだろうけど、本当に貴族って自分勝手。
「おいっ!全員降りろっ!降りなきゃ、馬車に火を放つぞ!」
「きゃあああ!」
「なんなんだっ。盗賊かっ?」
「降りたらころされるんじゃ・・・」
乗合馬車に乗っていたのは、例の二人を入れて、八人。
あの二人は放置として、残り五人くらいなら何とか守れるかな。
「降りた方が良いと思います。あの手合いは火を放つと言ったら本当に放つでしょうから」
護衛らしき男性が、フードの男性を後ろに庇いながら立ち上がり、乗客に降りるように促している。
やれやれ。
とりあえず、五人には防御結界を張らなきゃね。
大きな音を立てて、馬車が揺れる。
「きゃあ!」
乗っていたご婦人が悲鳴をあげ、男の人たちは何事かと声を上げた。
私は懐のクロが出ないように、声をかける。
「クロ、出ちゃ駄目だよ」
「みー」
小声で応えたクロの頭を撫でて、意識を馬車の外に向けた。
ちなみにクロは、上着の下に大きなポケット付きの服を着ているんだけど、そのポケットの中にいる。
これは、宿屋の女将さんが作ってくれた。
それまではクロを布で包むようにして、体に布を縛り付けたり、ポーチに入れたりしてたんだけど、これなら落ちる心配もないし、狭いポーチの中で我慢してもらわなくても済む。
馬車の外では、怒鳴るような男たちの声がしていて、馬車の中のみんなは怯えたように身を寄せ合っていた。
馬車に乗った時は、私に一人なのかと気遣ってくれていた女性も、さすがに今はそんな余裕はないようだ。
私は、斜め向かいに座る人物に視線を向けた。
フードを深く被っているから、容姿はわからないけど、体つきから見てまだ若い男性だと思う。
隣に座る二十代後半くらいの男性は、多分騎士か何かだろう。
雰囲気が、シンクレア王国で見ていた騎士たちのソレと似ている。
もっとも聖女の力に頼りっきりで、形ばかりの訓練しかしていなかった騎士とは、その力量は天地の差がありそうだけど。
隣の少年だか青年だか分からないけど、フードの男性は隣の騎士の護衛対象のようだ。
そして、外の男たちの目的は彼らだと思う。
ボソボソと小声で会話する内容からすると、彼らは襲撃があることを察していたようだ。
聞こえないように小声で、しかも他国語を使っているけど、あいにくと私は地獄耳である。
でもって、お馬鹿な婚約者のために散々色んな勉強までやらされたので、簡単な会話くらいなら理解出来る。
というか、襲撃があると分かってるなら、乗合馬車なんかに乗るんじゃない。
他の人に被害があったら、どう責任取るつもりよ。
護衛が付いてることといい、多分お貴族様なんだろうけど、本当に貴族って自分勝手。
「おいっ!全員降りろっ!降りなきゃ、馬車に火を放つぞ!」
「きゃあああ!」
「なんなんだっ。盗賊かっ?」
「降りたらころされるんじゃ・・・」
乗合馬車に乗っていたのは、例の二人を入れて、八人。
あの二人は放置として、残り五人くらいなら何とか守れるかな。
「降りた方が良いと思います。あの手合いは火を放つと言ったら本当に放つでしょうから」
護衛らしき男性が、フードの男性を後ろに庇いながら立ち上がり、乗客に降りるように促している。
やれやれ。
とりあえず、五人には防御結界を張らなきゃね。
98
お気に入りに追加
2,572
あなたにおすすめの小説
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始

【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません
との
恋愛
第17回恋愛大賞、12位ありがとうございました。そして、奨励賞まで⋯⋯応援してくださった方々皆様に心からの感謝を🤗
「貴様とは婚約破棄だ!」⋯⋯な〜んて、聞き飽きたぁぁ!
あちこちでよく見かける『使い古された感のある婚約破棄』騒動が、目の前ではじまったけど、勘違いも甚だしい王子に笑いが止まらない。
断罪劇? いや、珍喜劇だね。
魔力持ちが産まれなくて危機感を募らせた王国から、多くの魔法士が産まれ続ける聖王国にお願いレターが届いて⋯⋯。
留学生として王国にやって来た『婚約者候補』チームのリーダーをしているのは、私ロクサーナ・バーラム。
私はただの引率者で、本当の任務は別だからね。婚約者でも候補でもないのに、珍喜劇の中心人物になってるのは何で?
治癒魔法の使える女性を婚約者にしたい? 隣にいるレベッカはささくれを治せればラッキーな治癒魔法しか使えないけど良いのかな?
聖女に聖女見習い、魔法士に魔法士見習い。私達は国内だけでなく、魔法で外貨も稼いでいる⋯⋯国でも稼ぎ頭の集団です。
我が国で言う聖女って職種だからね、清廉潔白、献身⋯⋯いやいや、ないわ〜。だって魔物の討伐とか行くし? 殺るし?
面倒事はお断りして、さっさと帰るぞぉぉ。
訳あって、『期間限定銭ゲバ聖女⋯⋯ちょくちょく戦闘狂』やってます。いつもそばにいる子達をモフモフ出来るまで頑張りま〜す。
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結まで予約投稿済み
R15は念の為・・

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります
秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。
そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。
「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」
聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。
【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。
みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」
魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。
ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。
あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。
【2024年3月16日完結、全58話】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる