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 私の大切なクロ。

 クロがいてくれたから、私は彼女がいなくなった寂しさを我慢できた。

 最初からいなければ寂しさも感じずに済んだのに、一旦知ってしまった温もりを手放すことは出来なかった。

 それに、あんなに小さくて可愛い存在を傷つけるなんて許せない。

 どんな報復にするか、クロを助けてからずっと考えていた。

 この世界には呪い、呪術というものがある。

 でも『人を呪わば穴二つ』だ。

 人を害すると密かにやったつもりでも、同じ仕打ちにあうことを覚悟しなければならない。

 だから、私はクロを傷つけた誰かを呪ったりはしない。

 そもそも、私には呪術の知識がない。

 聖女としての務めが忙しかったのもあるが、興味がなかったので調べようとも思わなかった。

 私がやるのは、使える魔法を駆使して、クロを傷つけた誰かが自滅するように罠をはることだ。

 私に恨みがあるのか、それとも自分より弱いものを甚振る性格なのかは知らないが、後悔してもらおう。

 幻覚魔法を使って、クロの幻覚を作る。

 ああいう手合いは同じことを繰り返すから、クロの姿を見たら再び傷つけようとするだろう。

 その幻覚に危害を加えたら、同じことが傷つけた人間に跳ね返るように仕組む。

 倍返しにするか迷ったけど、自分のしたことを理解してもらうためにも等価にすることにした。

 腕を折れば同じように骨折し、切りつければ同じように傷を負うように。

 もしもクロが死んでいたら、と思うと許すという選択肢はなかった、

 私は聖女としての力をなくすとしても、絶対に報復する。

 だから、この罠の過程で相手が死ぬようなことがあっても、後悔なんてしない。

 まだ私自身に向かって来られた方が、何倍もマシだ。

 懐の中で眠っているクロをそっと撫でる。

 そろそろ出て行こう。
クロが懐から落ちないように、しっかりと抱き上げた。

 高速移動の呪文を唱える。

 この呪文は、魔力の消費が激しいがその分、魔力切れにならない限り持続できる。

 騎馬並みの速さで走れるのと、山を登るのも疲れたりしないので、二日もあればカルディア帝国に着くだろう。

 帝都に入るのには入国証がいるらしいので、まずは国境付近の町で冒険者登録をするつもりだ。

 冒険者ギルドは各国にあり、全て繋がっているのだが、シンクレア王国王都には冒険者ギルドがない。

 というのも、シンクレアの王都は聖女の結界で魔物は入ることが出来ないからだ。

 しかもポーションの作成も聖女がしているため、ギルドへの依頼が王都ではほとんどないのだ。

 もっとも、私がいなくなればギルドが必要になる。

 一週間で結界に綻びが出来始め、一ヶ月たたないうちに結界は消えてしまうだろうから。


 


 
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