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守るべき家族

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 この黒猫の名前は、クロと言う。

 ネーミングセンスがないのは分かっているので、白けた目で見ないで欲しい。

 私とクロが出会ったのは、つい半年前だ。

 私は元々が孤児だったから、教会にいるのも孤児院にいるのも生活は大差なかった。

 三歳の頃から教会にいて、結界を張るのもポーションを作るのも当たり前と教えられて来たから、それに違和感を抱き出したのは最近だ。

 それに、私にはずっと親しくしていた平民の聖女がいた。

 私が言うことを聞かないと、彼女が責められたから。

 私ひとりなら、こんな国簡単に逃げることが出来たけど、友人の彼女を見捨てることは出来なかった。

 私がいなくなれば、結界の維持やポーション作りで、下位貴族や平民の聖女は、寝る間すら惜しんで働かなければならない。

 それが分かっていて、出て行くことは出来なかった。

 家族もいなくて、聖女と呼ばれていても便利のいい『金のなる木』としか見られていなかった私にとって、彼女は姉みたいなものだった。

 だけど、半年前。
彼女は突然、聖女をやめて親元に帰ってしまった。

 さよならすら言えなかった。

 親元に帰ったと、他の平民の聖女から聞いたのだ。

 何故、何も言ってくれなかったのか。
私にはわからない。

 親しくしていると思っていた。
でも、下位貴族の聖女が言うように、孤児で貴族令嬢でもない私が、王太子の婚約者だということに、本当は腹を立てていたのかもしれない。

 下位貴族の聖女や平民の聖女と、全く会話をしないわけではない。

 でも、陰口は叩かれていたのは知っている。

 彼女がいなくなった日から、私は本当にひとりぼっちになった。

 そんなある日、教会の裏庭で見つけたのがクロだった。

 親に見捨てられたのか、今にも死にそうな子猫は、私にとって唯一の家族となった。

 餌を与え、癒しの魔法をかけ、大切に大切に育てた。

 クロは私が聖女としての務めをしている間は、部屋で大人しく眠っていた。

 クロの存在は、誰にも知られていないはずだった。

 だけどあの婚約破棄の前日。

 部屋に戻った私が見たのは、傷だらけで息も絶え絶えのクロだった。

 クロは警戒心が強い。
私以外の人が部屋に入って来たなら、すぐに隠れようとするはずだ。

 それなのに、クロの毛は血だらけで、動くことさえできないみたいだった。

 この時ほど、聖女であって良かったと思ったことはない。

 治癒魔法をかけ、他人から見えないように隠蔽魔法をかけて懐に入れた。

 治癒魔法で傷は回復するが、失われた血は戻らない。

 ゆっくりと時間をかけて、体が回復するのを待つしかない。

 目覚めないクロを抱きしめ、犯人に対する罠を仕掛けた。
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