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追跡されても困るので

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 会場から出て行く私に、ポカンとしていた王太子だが、私が扉を閉めた後に怒鳴っているのが聞こえた。

「衛兵っ!ティアラを拘束し、間違いなく国外へ放り出せ!何なら魔物のいる森に捨てても構わない」

「「「はっ、はい!」」」

 王族の命令だ。
慌てて衛兵たちが扉を開けて会場から出てくる。

 衛兵たちは、直前に出たはずの元聖女の姿がそこにないことに驚き、王宮の入り口の方に走って行った。

 それを見ながら、私は後から歩いて行く。

 私は、隠蔽魔法が使えるのだ。

 隠蔽魔法とは、例えば手に持っているものをない様に見せることが出来る。

 実際になくなってしまうわけじゃないから、触れればあることは分かってしまうんだけど、人というものは案外視覚に頼っているものなのだ。

 その隠蔽魔法を自分自身にかけて、衛兵が出てくるのを待っていた、というわけである。

 王太子が大人しく、私が出て行くのを見送るとは思っていなかった。

 国外に出るのを確認したいだろうから、拘束するだろうと予想していた。

 だから、会場から出てすぐに隠蔽魔法を使った。

 あとは衛兵たちにぶつからないように避けて待ち、衛兵たちの後をついていけば良い。

 何故、先に行かないかって?
だって姿は隠せていても、扉や門を通り抜けれるわけではないの。誰もいないのに、扉が開いたりしたら、隠蔽してるのバレてしまうじゃない。

 使える人は少ないけど、その存在は意外と知られているのだ。

 なのに、私が隠蔽魔法を使っていると衛兵たちが気付かなかった理由は簡単。

 私が聖女としての力しか見せていなかったから。

 それ自体も多少は手を抜いていたし、他の魔法が使えるなんて、言ったことも見せたこともない。

 信用出来ない相手に、自分の手の内を全て見せるほど、私はお人好しではないのだ。

 私は王宮から出ると、教会へと向かった。

 聖女は基本、教会にて生活する。
王太子にべったりだった現婚約者様は、公爵家のご令嬢ということで通いであったけど。

 高位貴族のご令嬢は、どうしても通いになる方が多い。

 ただそうなると、お祈り以外のことが出来る時間があまりない為、どうしても聖女としての能力が向上するご令嬢は少なかった。

 その点、平民や下位貴族のご令嬢は、日々のお祈りも奉仕活動や教会の掃除などにも精力的で、聖女としての力も増していた。

 私?私は伯爵家に売られたようなものだ。
 だから教会で暮らしていた。

 下位貴族や平民と同じように、自分たちで食事を作り、部屋の掃除や洗濯もする私のことを、高位貴族の聖女や修道女、教会の人たちは馬鹿にしていたけど。

 教皇は私の聖女の力を知っていたから、馬鹿にはしなかったけど、馬鹿にされている私を庇いもしなかった。

 教皇にとって私は、お金になる駒でしかなかったものね。



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