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何も見えていない婚約者

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 堂々と他のご令嬢を抱き寄せながら、婚約者を貶す。

 はっきり言って、ロクでもないと思う。

 この王太子、容姿と身分は優れているけど、頭の中は空っぽだ。

 大体、私が望んだわけでもない婚約なのだ。

 王家が聖女である私を国外や他の貴族家に渡したくないから、無理矢理結んだ婚約なのだ。

 そこを何故当人の王太子が理解していないのだろう。

 それに、見た目で聖女が決まるわけがないだろうに。

 聖女の中には、孫もいる年齢の方もいる。
 容姿も極々普通の方だ。

 物語の聖女のように、純潔でなくなれば力が失われるなどということはない。

 そんなことがあるなら、王太子の婚約者になど選ばれるわけがない。

 聖女としての力の維持は、キチンと毎日神に祈りを捧げること。
 そして、人として恥ずべきことをしないこと、だ。

 ちなみに、あの王太子にべったりの公爵令嬢にも聖女の力がある。

 ただし、祈りも不十分の上、私を陥れようとしている時点で、その力は微々たるものだということが分かる。

 だけど、これはチャンスである。

 国王陛下が決めた婚約だが、当人の王太子が衆人の前で婚約破棄を宣言してくれれば、私はこの国から逃げることができる。

 筆頭聖女である私がいなくなれば、この国は大変だろうが、そんなことは私の知ったことではない。

 私を売ったクリムゾン伯爵家に、教会、私を利用するために王太子の婚約者にしておきながら、大切にしない王家。

 ほら、どうでもいい。

「何とか言ったらどうだ!」

「カタパルト様。きっと、カタパルト様のかっこよさに見惚れて、何も言えないんですわよ」

「マリアベルは美しい上に、洞察力も優れているのだな。さすが聖女だ。君こそ僕の婚約者に相応しいというのに、何故父上はこんな不吉な女を聖女だと言うんだか」

 何故もなにも、私に力があることはあの教皇が認めたからよ。

 現にそこの聖女様は、全く、ちっとも、全然、何もしていないけど、私は毎日国のために結界を張るように国王陛下から命令され、王都に結界を張っている。

 治癒魔法も使えるので、毎日王宮騎士団に渡す治癒薬、いわゆるポーションの作成もさせられている。

 やりたいわけではないが、これをやらないと食事をもらえない。

 それに、これも祈りと同じで、日々鍛錬することで、力を上昇させることが出来るので、私自身はやること自体には文句はなかった。

 そう。
この国のためにやることが不満だっただけだ。

 さて。
茶番に付き合うのもそろそろやめにしよう。

 この二人とは、いや、この王宮の人間とは顔を合わせているだけで不快だ。

 さっさと婚約破棄を宣言してもらおう。

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