ヒロインだと言われましたが、人違いです！

溺愛されるヒロイン？

「アリア様はわたくしのお隣に座ってくださいませね」

「イザベラ様、ズルイです。じゃあ、私は左隣で」

「なら、私は前に座りますわ」

「でしたら私は後ろですわね」

　えーと？
何故に私は、攻略対象の婚約者のご令嬢方に取り囲まれているのかな？

　というか、ご自分の婚約者の隣に座らなくていいの？
　すごく恨めしそうな顔して見てるんだけど。

「あら、あら、あら。皆様見てくださいまし。あの羨ましそうなお顔」

「本当に。ですけど、アリア様のご婚約者様と約束いたしましたもの。絶対に悪い虫は近づけさせませんわ」

「あの方々だけではありませんけど、クセが悪いのはあの方々くらいでしょうしね」

「そうですわね。婚約者がいるご令嬢にちょっかいを出そうなんて、本当に無駄に身分だけはあるんですから」

　みなさん、私を放置してクスクスと笑い合ってるけど、言ってることは中々に辛辣だわ。

　無駄に身分だけはあるって。
ええと、好きなんだよね？婚約者のこと。
　だって、ヒロインに奪われそうになって嫌がらせするんだもんね？それでもって、婚約者とヒロインを断罪するんだもんね？

　私が不安そうな顔をしてたからか、安心させるようにイザベラ様が微笑んでくれる。

「大丈夫ですわ、アリア様。わたくしたちが側にいれば悪い虫など１匹も近寄れませんから」

「えっと・・・はい。ありがとうございます」

　不安なのは、ご令嬢に取り囲まれてるこの状況に関してなんだけど。

　なんかおかしくない？
私、一応ヒロインのはずなんだけど。そして、ご令嬢方は私のこと嫌いなはずなんだけど。
　どう見ても、私がご令嬢方に溺愛されてるっぽく見えるんだけど。

　私の気のせい？気のせいかなぁ・・・
攻略対象たちも妙に私のことを気にかけてるし。

　攻略なんてしてないし、あの街での出会いがもし出会いイベントだったとしても、あれで好感度上がるとは思えないんだけど。
　正門に勢揃いでエスコートを申し出るって、どう見ても逆ハーレムルートの攻略最終っぽくない？

　ヒロインに婚約者がいる時点で、乙女ゲームと筋書きが違うのは分かる。
　だから、婚約者のご令嬢方が私と仲良くしてくれるのなら、それはそれで嬉しい。
　同性の友達って大切だもん。

　だけど、それならどうして攻略対象たちはヒロインわたしに興味を持つの？
　大体、攻略もしていないし、乙女ゲームでは序盤は攻略対象たちも婚約者とそれなりに仲良くしてたはずなんだけど。

　確かにご令嬢方と一緒にいれば、攻略対象たちは近寄って来れないと思う。
　自分の婚約者の前で、他の女にちょっかいかけるほど馬鹿でないだろうし。

　そんな風に考えた私の安易さを叱ってやりたくなるのは、もう少し先のことになる。