全てを捨てた私に残ったもの

みおな

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「というわけなんだけど、アンリ嬢は養女になっても大丈夫?」

 ルヒト様からお聞きしたのは、公爵様がお父様に養子縁組をするかもと匂わしたということ。

 多分だけど、お金を出せば養女にはできそうだって。

 あの家から出れる。
それはものすごく嬉しい。

 私は男爵家の娘だし、この歳で高位貴族の養女になるのは大変だろうって、クレイモア公爵家の遠縁の伯爵家に養女として迎えてくれるらしい。

 伯爵家ってだけでも緊張するし、学園に通ってない私が大丈夫かなって思うけど、それよりも・・・

 義母を残して逃げることが正しいのか。

 残りたいわけじゃない。できることなら逃げたい。
 でも、残された人間が不幸になるの分かってて、それを見ないふりするのは・・・

 自分の人としての醜さに、俯いてしまう。

「アンリ嬢?」

「ご、ごめんなさい。すごく有難いお話だって分かっているんです。でも、義母が・・・」

「お母上を残すことが不安?」

 ルヒト様のお言葉に、頷く。
不安・・・そんな優しい気持ちじゃない。

 私は、ズルい。
自分じゃ決めれないから、ルヒト様に「大丈夫だよ」って言ってもらおうって思ってる。

「アンリ嬢、正直に言って?お父上はアンリやお母上に手をあげてるの?」

「・・・ルヒト様」

「アンリ嬢。アンリ嬢がお母様を助けたいなら、正直に話して欲しい。僕は未熟だけど、父上ならアンリ嬢とお母上を助けることが出来ると思う。でも、アンリ嬢が正直に話してくれなければ、僕は父上にお願いすることができない」

 正直にいうことを躊躇ったのは、父の暴力が公爵様に知られたら、父がお咎めを受けるから。

 父を守ろうとか、そんな良い気持ちじゃない。

 お咎めと言っても、口頭注意程度だろうから、その後にまた暴力をふるわれるのが怖かっただけ。

 本当に話しても大丈夫?
私だけじゃなく、義母も・・・助けてくれる?

「怖いのです。もし父がお咎めを受けたとしても、自由になったら私や義母にあたると思うから。逃げ切れないと思うから、息をひそめて嵐が通り過ぎるのを待つしかないんです」

「アンリ嬢。父上に相談してもいいね?」

「・・・はい」

 話してしまったのだ。
それなら、万が一の可能性にかけるしかない。

 駄目だったら・・・

 またその時に考えよう。
殴られると思うけど、もしかしたら心を入れ替えては・・・くれないだろうけど。

 殴られて死んじゃうかもしれないけど、でもそうしたら義母は自由になれる。

 そう考えたら、気が楽になった。

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