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 僕の名前は、ルヒト・クレイモア。
父はクレイモア公爵で、この国で王家に次ぐ力ある公爵家の嫡男だ。

 だからというわけではないが、僕は現在公爵家本邸ではなく別邸で暮らしている。

 父は、公爵となるための練習だと言っていた。

 それもあるだろうが、公爵としての父は忙しく家に訪れる者も多いため、僕が落ち着いて暮すための場所を提供してくれたのだと思う。

 そんな中、学園からの帰りに事故が起きた。

 いや、正確には馬はギリギリ止まったのだが、ぶつかりかけた少女が倒れてしまったのだ。

 実をいうと、公爵家と縁を結ぼうとこのような手段に出る人間は何人もいた。

 僕に近付いて上手く取り込もうとする人間や、僕との婚約を取り付けようとする人間。

 だから、事故が起きても基本的に僕は馬車からは出ない。

 キチンとした対応ができる御者で、任せても大丈夫だからだ。

 だが、その日は馬車の外から声がかけられた。

「坊ちゃま、申し訳ありません。気を失ってしまったようなのです」

「ぶつかったのか?」

「いえ。ギリギリ止まったのですが」

 馬車から出ると、買い物帰りなのか荷物が散乱しワンピース姿の少女が倒れていた。

 平民の少女か?
なら近くの診療所に運ぶか。

「近くの診療所に連れて行こう。ぶつかってないなら、驚いて気を失ったんだろう」

「坊ちゃま。確認したところ、ガーデン男爵家の令嬢のようです。さすがに平民の行く診療所に運ぶのは」

「男爵家?」

 僕が、貴族の令嬢を警戒していることを御者は知っている。

 それなのに声をかけた?
男爵家と分かったということは、誰かに聞いたのだろう。

 まぁ、男爵家が筆頭公爵家に手出しすることはないだろうが。

 貴族の令嬢を、平民が利用する診療所に運ぶわけにもいかない。
 貴族用の診療所に運んでもいいが・・・

「屋敷に連れて行く」

 何故か僕は、彼女を屋敷に連れて行く気になった。

 御者に馬車内に運ばせ、屋敷に着くと侍女のメイリンに任せる。

 公爵家付きの医者を呼んで、僕は報告を待つ。

 ガーデン男爵家の令嬢には、虐待と思える痣がいたるところにあったそうだ。

 目覚めたら本人に確認しようと、メイリンに声をかけようとしたら、本人が起き上がっていた。

 目覚めた彼女は怯え、急いで屋敷から立ち去ろうとする。

 倒れそうな彼女を支え話を聞こうとするが、彼女は頑なに話そうとしない。

 これは、恐れている?
このまま帰すことは正しい判断ではない?

 メイリンに世話を任せ、僕は父に相談することにした。

 この別邸のことは僕に一任されてはいるが、他家のご令嬢を勝手に滞在させるわけにはいかないからだ。
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