全てを捨てた私に残ったもの

みおな

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「少し彼女と話をする。メイリン、外に出ててくれ」

 公爵令息様の言葉に、一瞬躊躇った侍女さんだけど、すぐに礼をとって出て行った。

 うん。そうよね。
大事なお坊ちゃまと得体の知れない女を、二人きりにさせたくないよね。

 未婚の男女だから、扉は細く開けられたけど、何も言わずに下がった侍女さんを見て、素直にすごいなと思った。

 公爵令息様は、私のいるベッド横に椅子を持ってくると、そこに腰掛ける。

 すごい。
かっこいい人って、座ってるだけでも目を引くんだ。

「メイリン・・・さっきの侍女だけど、彼女から聞いたと思うけど、君は僕の乗ってる馬車とぶつかった。正確に言うと、馬はギリギリ止まったんだけど、君はそのまま倒れてしまってね。頭を打ってる可能性が高かったから、医者に診察させた。この意味が分かるかな?」

「・・・」

 私の体には、父の暴力による痣がいくつかある。
 馬車の時にできた痣かどうかなんて、人が見ればすぐに分かるはず。

「あ・・・あの、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。貧乏もの故、何もお返しできませんけど、後日お礼に伺います」

 安い菓子折りくらいしか買えないと思うけど、どうせ遅くなった理由を言わなくてはならない。

 正直に言えば、菓子折り買うくらいのお金はくれると思う。

 父は私や義母には暴力的な人だけど、外面は良い人だから。

 ここで親に暴力を振るわれてるって認めたらダメ。

 公爵様なら、父に意見することは出来る。

 でも、そのあとは?
それを知られたことで余計に殴られるかもしれない。

 私の青白い顔を見ながら、公爵令息様はため息を吐いた。

、親の折檻痕だよね?」

「ち、違います・・・あの、もう失礼します・・・あっ!」

 慌てて立ちあがろうとしたからか、足がふらついて転びそうになる。

 椅子から立ち上がったご子息の手で支えられてしまう。

「も、申し訳ございません!」

「いいから、ベッドに戻って。まだ顔色悪い。名前、聞いていいかな?」

「・・・アンリ・・・です」

「・・・はぁ。親には何も言わないよ。だから、家名も名乗って。家に連絡しなきゃ心配してるでしょ」

 ご子息様は何も言わないと言ってくれたけど、名乗っても大丈夫?

 ううん。そもそも公爵令息様にこれ以上ご迷惑をおかけするわけにはいかない。

「ガーデン・・・アンリ・ガーデンです」

「ガーデン男爵家のご令嬢か。分かった。男爵家には連絡しておくから、今日はここで休むように。大丈夫、悪いようにはしないから」

 そう言うと、令息様は部屋から出て行かれた。

 不安はあるけど、私にはもうどうしようもなかった。
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