拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな

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互いの価値。

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 ギュッとシリルに抱きしめられる。

 その背中におずおずと手を回した。

「シリル・・・」

「クロエ、本当に?僕の婚約者になってくれるの?僕と結婚してくれる?」

「シリル、あなたが好きよ。あなたとずっと一緒にいたい・・・だけど、あのね、大事な話があるの」

 シリルと想いを交わせたのは嬉しいけど、婚約とか結婚の話の前に話しておかなければならないことがある。

 私とシリルは、元いたソファーに並んで座った。

「私たちは二年前に婚約を解消したわ。あの時はメルキオール帝国の皇女として、都合のいい扱いをされるわけにはいかないと私は思ったの」

「うん。あれは僕が浅慮だったんだ。最初にクロエやルーファス兄上に相談して、誰から見ても正しい判断をするべきだった」

「うん、お互いに間違えたの。そのせいで、多くの人に迷惑をかけたわ。レシピエンス王国の王女殿下だって、シリルを想ってマキシミリオン王国に来られた。私を想ってくれているのは嬉しいけど、シリルは王太子になったのだから、王女殿下と政略結婚をして、彼女を大切にして歩み寄る義務があったわ。そして私も、最初からシリルにどういう意図なのか尋ねるべきだったの。そして、お母様やお義兄様に相談するべきだった。私たちは一個人である前に、第三王子であり第二皇女だということを、ちゃんと理解するべきだった」

 お互いの好きとか嫌いとかの気持ちだけで、行動してはいけない立場だった。

「お母様に、言われたの。今回、シリルと想いが通じ合ったとしても、すぐに婚約することは認めないって。三年間、会わずにそれぞれがマキシミリオン王国とメルキオール帝国にとって利になる『何か』を成し遂げなさいって。そうしたら、再婚約を認めるって」

「三年・・・」

「ねぇ、シリル。私も頑張るわ。皇女だからと体裁ばかり気にかけるのではなく、ちゃんと自分の気持ちも相手の気持ちも慮れる人間になるよう努力するわ。そして、マキシミリオン王国の王太子となったシリル、あなたの隣に立つに相応しいと言われるように、認めてもらえるように、必要だと思われるように、なってみせるわ」

 王家で甘やかされて育った私たちが、その後ろ盾を捨てて平民として生きていくことは不可能。

 アルトナー王国の伯爵位は賜っているけど、領地もない伯爵家で、生活するために何かしら職に就かなくてはならない。

 私たちは、すべてを捨てて生きていくことは不可能だわ。

 ならば、お互いの必要性を周囲に認めてもらわなければならないの。
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