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許せなかった理由。

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「久しぶりだね、クロエ。元気そうで良かった」

 そう言って、シリルは微笑んだ。

 二年前の私の知っているシリルより、ずっと大人びていて背もずいぶん伸びた。

 銀髪は伸びて、襟足で束ねられている。

「シリルも元気そうね」

「最近、ようやく落ち着いたんだ。母上と義姉上が手を貸して下さったから何とか形になってるよ」

 ソファーに向かい合って座りながら、私たちは近況を語り合う。

 シリルは突然王太子になったから、とにかく大変だったと思う。

「クロエはどうしてた?」

「基本は帝国で、お姉様のお手伝いだったわ。甥っ子のルキが可愛くて」

 お姉様は、この二年の間に次期皇太子を出産された。

 メルキオール帝国の、黒髪黒目を継いだ甥っ子はとても可愛くて、もう時間ができたらしょっちゅう会いに行ったわ。

 あ。もちろん、お仕事のお手伝いもちゃんとしてたわよ?

 うちの国は、できるだけ乳母任せにせずに子供を育てるから、お姉様の執務室にはベビーベッドが置かれていたの。

 最初は、大臣たちも目を丸くしてたけど、慣れるしかないわよね。お姉様は皇太女なんだもの。

 出産間際まで皇太女として働いていたお姉様。

 家族として、サポートするのは当然よね。

 シリルにとっても甥だけど、シリルはルキに会いには来なかった。

 もちろんお祝いは送って来たけど。

 王太子になったばかりの上、国は混乱してたのと・・・

 多分だけど、私に会うのを避けてるのだろうと、ルーファスお義兄様が言っていた。

 シリルは私のことを好きな気持ちのままだから、私に縋りたくなるのだろうって。

 二年前、シリルがあっさりと婚約の解消を受け入れたのは、自分のしたことを悔いたから。

 そして父親と兄の私への態度で、私との関係回復は難しいと思ったから。

 そうね。
あの時は、婚約の解消が最適だったわ。

 私はシリルの、未遂とはいえ私を蔑ろにする行為を許せなかったし、皇女としても許すべきじゃなかった。

 婚約を解消した後、少し寂しさを感じたけど、従兄弟であることは変わらないんだから、そのうちに元に戻れるって思った。

 お母様に言われて、三人の婚約者候補に会って・・・

 カグレシアン様に言われて、気付いたの。

 私が、二年前にどうしてシリルを許せなかったのか。

 あの時の私は、シリルに対して恋心を持ち始めたばかりだった。

 今まで、異性として相手を特別な好きになったことがなかった私は、シリルの行動が許せなかった。

 シリルには決してそんなつもりはなかったのだけど、私はそれを裏切りのように感じてしまった。

 だから、未遂でしかも国王陛下たちの命令だったというのに許せなかったのよ。
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