拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな

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さよなら。

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 王妃殿下と王太子妃殿下との話し合いが終わり、王妃殿下はこのままシリルとの話し合いに使って下さいとお部屋を貸してくれた。

 防音の魔道具が設置されているのは、執務室だけなので、自分の執務室を持っていないシリルの部屋では、国王陛下たちに話が筒抜けになる可能性があるからだ。

「クロエ・・・本当にごめん」

「もういいわ、シリル。シリルに悪気がなかったことは分かったから。でも、婚約は続けられない。それは分かってね」

「うん」

 魅了使いが現れたりしなければ、いえ、国王陛下たちがシリルを駒として使おうとしなければ、婚約者のままだった。

 シリルのことは、好きだ。
家族としての好きの部分が大半だけど、ほんの少しだけ異性としての好きを認識し始めてた。

 だから、こんなことになって残念だけど、あの二人のいる国で暮らしていたら、きっとずっと使い勝手のいい駒として使われていたかもしれない。

「それで、魅了使いのご令嬢のことはどうするの?」

「うん。母上や義姉上、魔法師たちと相談してみる」

「そう。そうした方がいいわ。シリルはもっと強かになったほうがいいわ。いくら家族でも、国王陛下や王太子殿下に都合の良いように扱われているのでは駄目よ。まぁ、家族に甘やかされている私が言うのもあれだけど」

 私の言葉に、シリルがハハッと笑い声をあげた。

「うちは・・・どうなるかな?」

「お母様とお姉様次第、というところ。だけど、多分・・・国王陛下と王太子殿下は挿げ替えになるわ。幸いにも王妃殿下と王太子妃殿下は状況をご理解されているから、そのあたりで手を打ってくれると思う」

「そう、か・・・ねぇ、クロエ。僕はさ、本当にずっとクロエのことが好きだったんだ。クロエに捨てられたら生きている意味がないって父上に言ったけど、本当にクロエは僕の全てだったんだ」

「シリル・・・ずっと私を想っていてくれてありがとう。シリルが支えていてくれたから、私はただのクロエとして生きて来られた。本当にありがとう」

 私は、シリルの愛情に甘えていたんだわ。

 どんなことをしても、どんなことを言っても、シリルの愛情は変わらないと心のどこかで思っていたのかもしれない。

 シリルの気持ちには応えられなかったけど、私たちが身内であることは変わらないわ。

 この先、お互いの立場がどう変わったとしても。

「礼はいらないよ。僕のほうこそ、クロエの信頼を裏切ってごめん。たとえクロエの恋の相手になれないとしても、この先クロエが僕に好かれていて良かったと思える人間になるよ」

「ええ。さよなら・・・シリル」

 ギュッとシリルと抱きしめ合った。
最初で最後の・・・婚約者としての抱擁だった。



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