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予想通りの行動と予想外の気持ち。

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「あのぉ、私と踊ってもらえませんか?」

 一人になったシリルに声をかけたのは、予想通りのレグディア男爵令嬢だった。

 公爵家侯爵家の人間は、シリルが誰なのか理解っている。

 分かっていない人間もいるかもだけど、シリルの目はマキシミリオン王国王族特有の色。

 しかも王家から「シリルにはダンスを申し込むな」という通達が来ている。

 その時点でほとんどの人間は気付く。

 そして、その通達を受けていない子爵家や男爵家も、皇女とダンスをしている時点で相手だと理解する。

 それに気づかないのは、どこかの誰かたちのように頭の中にお花畑がある人間か、理解していてもと自信がある人間だけ。

 闇組織の首領は、ルノール公爵令息に薬が効かなかったことで、警戒して高位貴族たちへの接触を諦めた。

 侍従の彼が亡くなったことで、自分たちにたどり着くことは不可能と思っているみたいだ。

 実際、レグディア男爵令嬢が関わっていることは分かったけど、首領までは届いていない。

 今回、捕縛し損なったら他国へ逃げられるだろう。

 だから、準備はちゃんとした。

 シリルが適任だということも理解している。

 容姿が優れていて、レグディア男爵令嬢が相手で、魔道具の扱いにも慣れている。

 だけど、現在レグディア男爵令嬢の手を取ってダンスをしているシリルを見ていると、胸の奥が重くなってしまう。

「どうしたの?クロエ」

「・・・わかりません。ただ、シリルは好意で手伝ってくれているのに、それは分かっているのに、何だかムカムカするのです」

 お姉様の問いに、私はシリルから視線を外さずに答えた。

 シリルの優雅なエスコートで、レグディア男爵令嬢は楽しそうにステップを踏んでいる。

「あらあら」

「シリル、囮になった甲斐があったな」

「囮になった甲斐?」

 ルーファスお兄様の言葉に、私は首を傾げる。

 シリルが適任だったからお願いしたけど、危険が伴うことは間違いないのに。

「ねぇ、クロエ。クロエは、アルトナー王国でそんな気持ちになったことはないの?あの馬鹿婚約者が他の女をそばに置いていた時、そんな気持ちにならなかったの?」

「元婚約者様の時ですか?そうですねぇ・・・最初は、この人政略結婚の意味も分からないんだって驚いて、それからそんなにその人が好きならそっちと婚約すれば良いとは思いましたけど」

「そう・・・なのね。でもシリルがあの男爵令嬢と踊ってるのを見るとムカムカするのね?」

「はい」

 初恋なのかしら、そう呟いたお姉様の声は私には聞こえなかった。
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