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黒歴史にすらなりません。

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 しかし、元婚約者様もファンティーヌ様も、ご自分の立場を理解していないのね。

 刑を決めたのはコンラッド公爵様だけど、その刑を女王陛下がお認めになったの。

 つまり今のあなた方は、女王陛下が決められたことを蔑ろにしているの。

 何も考えていないことにため息はもれるけど、別に気にはしていないわ。

 あの二人がどん底に堕ちようと、私には関係ないことだもの。

「幸せな頭を持ってらして、よろしいですわね」

「気にはならない?」

「ええ、全く。あの方の婚約者だったことは、黒歴史にすらなりませんわ。だって、婚約者というのは名だけで、パーティーのエスコートどころか、お茶会ひとつご一緒してませんもの。あの方が婚約者だったのだろうと言われても、顔すら覚えてない関係ですしね」

 思い出したくない恥ずかしい過去のことを黒歴史というらしいけど、恥ずかしいのは元婚約者様たちだけで、私はそれを知られたからといってなんともないわ。

「本当に、何を考えていたのかしらねぇ。クロエの身分を知らなかったとしても、婚約は王家からの指示で決まったことなのに」

「仕方ありません。どこかに常識を落としてきたみたいですから。お兄様はご立派な方なのに、残念ですわ」

 私はオリビア様の夫となるアドルファス・コンラッド様とは面識があった。

 私がまだ元婚約者様と婚約する前、メルキオール帝国に視察に見えた時にご挨拶している。

 オリビア様と仲睦まじい様子や、知識も豊富で紳士なアドルファス様に、憧れを抱いた。

 だから、お父様がアドルファス様の弟様との婚約を決めてきた時、ほんの少し期待したのよ。

 結果は残念なものだったけど。

「それで、クロエはシリル殿下とのこと、どうするつもりなの?」

「・・・そうですね、お父様の出した婚約の条件を、あと二つクリアしたら婚約いたしますわ。シリルが嫌だと言わなければ」

「いいの?もし嫌なら、私が話してあげるわよ?」

 お母様の申し出に、私はゆるゆると首を振る。

「元々、なら受け入れるつもりだったのです」

 私は、シリルに好意は抱いているけれど、恋愛感情は抱いていない。

 もちろん、この先シリルのことを、恋愛的な意味で見るようになるかもしれない。

 だから、シリル次第。

 シリルが愛を求めても、私は恋愛対象としてシリルを見れないかもしれない。

 それでもいいと望んでくれるなら、私は婚約したいと思う。

 政略結婚相手として、シリルは何の問題もない。

 敬愛できる相手だもの。
 
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