嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

懸念〜ハデス視点〜

　皇帝陛下のお子様の中で、唯一俺と距離を置くのが、第二皇子のサリュ殿下だ。

　理由は簡単で、サリュ殿下が羨んでいる皇帝陛下や第一皇子殿下のセイン殿下と俺が親しくしているから。

　多感な時期だったのもあって俺は避けられるようになっていたが、決してサリュ殿下が俺やセイン殿下を嫌っていたわけではないことは理解している。

　皇帝陛下のお子様たちは、皆それぞれに優秀な方だ。

　セイン殿下は広い視野で物事を見ることができ、サリュ殿下は細かいところまでよく気がつく。

　ジーク殿下とソルト殿下は、まだ年若いからヤンチャなところもあるが、人に好かれ人の懐に入るのが上手い。

　そしてスオン殿下。
この方は誰よりも、もしかしたら陛下よりも皇帝陛下という地位に相応しい方だ。

　情に惑わされず冷酷な判断ができ、人の上に立つ者としての生き方ができる。

　だからこそ齢十三歳の末弟なのに、スオン殿下を皇帝陛下の後継にと推す貴族がいる。

　性格上、セイン殿下は気にされていないが、スオン殿下はそのことをヨシとされなかった。

　だからマクラーレン王国の王配になると、ご自分から進言されたのだ。

　スオン殿下だけは他国のご令嬢、いずれ女王陛下になられるが、との婚約になったが、残りの王子殿下たちはエレメンタル帝国の貴族令嬢と婚約している。

　今回問題になっているサリュ殿下も、婚約者のことを大切にしていて、仲良くやっていたはずだった。

　突然、他国のご令嬢を留学させろと言い出した時は驚いたが、ジュエルが調べて来てくれたところによると、婚約者の幼馴染が良からぬことをサリュ殿下に吹きこんだ可能性がある。

　婚約者のサングリア子爵令嬢のことを本気で好きだからなのか、それとも婿入りするつもりだった子爵の地位のためか、それとも後ろに誰かいて、皇帝一家に牙をむいているのか。

　まぁ、陛下が動かれるならすぐに判明するだろう。

　陛下は、公私混同しているように見えて、その線引きはちゃんとしている方だ。

　だからこそ、サリュ殿下のことを俺たちに頼み、自ら調査することはなさらなかった。

　今回の件も、当人同士の問題なら陛下は動かれなかった。

　男爵家の三男だけでなく、誰か操っている人間がいる可能性があるために、動かれることにしたのだ。

　そういう相手に鼻が効くジーク殿下やソルト殿下ではなく、狙いをサリュ殿下にしたのは婚約者が子爵令嬢ということや、サリュ殿下の本質が優しい人間だということを踏まえてのことだろう。

　ただの男爵令息の暴走であればいいが。