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ウェディングドレス

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「お嬢様、動かないで下さいね」

「はい」

 動きたくても動けないわ。
合わせているドレスには、まち針がたくさん刺されているんだもの。

 痛いのも嫌だけど、真っ白なドレスに血なんて付いたら大変。

 派遣されたデザイナーさんたちは、手際良く私にドレスを合わせていく。

 そう。王宮から派遣されてるのよ。

 皇妃様御用達のデザイナーの方に、まさかウェディングドレスを作ってもらうことになるとは思わなかったわ。

 しかも極上品の絹は、皇妃様からの結婚祝いなの。

 形自体は、シンプルなAラインなのだけど、レースと刺繍で豪華かつ品良く見える。

 腰から裾にかけてたくさんのレースが重ねられ、襟元や手首もレースが覆っている。

 繊細なレースは、淡いピンクと銀糸で刺繍がされていた。

 どう見ても、一介の伯爵令嬢のウェディングドレスには見えないわ。

 高位貴族・・・いいえ、王族の婚姻衣装だわ。

 一生に一度のことだし、私もかつて王太子殿下の婚約者だったから、素敵なウェディングドレスは嬉しいけど、行き過ぎじゃないの、これ。

 おそろしくて値段が聞けないわ。

「素敵ですわ。お嬢様の可憐さと、それでいて気高さが引き立っていますわ。このようなドレスを手がけることができて、デザイナー冥利に尽きますわ」

「本当に素敵なドレス」

「お嬢様のイメージでデザインしたドレスです。あとはこちらで微調整しますわ。お嬢様、体型を維持してくださいませね?」

「はい」

 もちろん式の一ヶ月前には最終調整をしてくれるけど、あくまで微調整程度だもの。

 ハデス様が甘やかすし、ハンナの作るご飯が美味しいのよね。

 私の体型維持が、結婚式までの一番の課題かもしれないわ。

 ハンナに、今日から食事の量を管理してもらわなきゃ。

「どこか気になるところはありますか?靴の方は痛いところなどありませんか?」

「大丈夫です。でも、歩くと靴の飾りがドレスのレースに引っかかりそうなので、ない方がいいかと」

「わかりましたわ。刺繍に変えるか、飾りは退けましょう」

 立っているだけなら問題ないのだけど、実際は歩くのでドレスの裾のレースに引っかかりそうなの。

 ドレスが豪華だから、靴はシンプルでも良いと思うわ。

「ベールは前が見づらいとかありますか?」

「大丈夫です。刺繍が綺麗」

 当日は髪を結い上げて、ベールを花飾りで留めることになっている。

 その花も、私の髪と瞳の色のピンクでまとめると聞いている。

 ちなみにハデス様の衣装も私と対で、白に銀とピンクの刺繍。

 そしてピンクのチーフですって。
ふふっ。お揃いね。

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