嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

下準備

　ラディシュ侯爵家の子飼いの伯爵家主催のパーティー。

　その伯爵家から、私宛てに招待状が届いた。

　ハデス様にも届いたのは、私ひとりなら参加しないかもしれないからかしら？

　心配しなくても、参加しますのに。
だって、その日に仕掛けてくることが理解っているのだから。

　この日のために、この一ヶ月準備をしてきた。

　皇妃様は、妹であるラディシュ侯爵夫人を呼び、離縁するように話した。

　自分の娘が何をしようとしているか、そして夫の両親がそれに手を貸していることを知って、夫人は自分も親として責任を取るとおっしゃっていたけど、陛下がそれをお許しにならなかった。

　夫人に与えられた罰は、自分のお腹を痛めて産んだ娘が罰を与えられるのを黙って見ていること。

　生涯を共にすることを誓った夫が、罰せられるのを黙って見ていること。

　それは側から見るほど、軽い罪ではないと思う。

　家族に愛情があるのなら、一緒に罰せられた方が気は楽だろうから。

　それでも、皇妃様は侯爵夫人に生きていて欲しいと願った。

　自分のエゴだと理解しているけど、生きていて欲しいと。

　侯爵夫人は・・・
最終的に離縁を受け入れた。

　ロロナ様の調査の最中に、侯爵の不貞が見つかったのだ。

　どうやら、前回のロロナ様への罰に不満を持った侯爵は、酒場の女性と懇意になっていたようだ。

　皇帝陛下より、その不貞の証拠を受け取った侯爵夫人は、それを夫に突き付けた。

　皇妃様の妹だからといって、甘い汁を吸えるわけでもない。

　だから、プライドだけは高い嫁だと見下していた侯爵の両親は、息子に離縁を告げるように言ったらしい。

　そして、侯爵はリディア様に離縁を宣言した。

　泣いて縋ってくるのを、期待していたのかもしれない。

　馬鹿らしい。
元々が公爵令嬢で、姉が皇帝陛下に嫁いだのよ？

　自分や家族の言動に厳しくなるに決まっているじゃない。

　自分たちの言動で、皇妃様に害が及ばないように気遣って当然なのに。

　でも、今回はちょうど良かったわ。

　皇帝陛下は、離縁の一週間後に公爵家で開かれたパーティーで、リディア様が侯爵方の希望で離縁したことを公表された。

　本来なら、捨てられたという悪いイメージになることだから避けるのだけど、今回はリディア様が望んだのではなく、侯爵側が望んだということを周知しておく必要がある。

　ラディシュ侯爵家を罰した時に、リディア様が逃げたと言われないように、だ。

　そして、パーティー当日の朝。

　私とハデス様は、皇帝陛下からとてもとてもとてもとーっても不味いお薬を飲まされた。

「これの後だと何を飲まされても美味いと感じそうだ」

　ハデス様のお言葉に、笑ってしまった。