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その場所はわたしのもの〜ラディシュ侯爵令嬢視点〜

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 私に全く興味を示さない伯爵に、その隣にいるのが当然という様子の恋人だという女。

 そんな男のことは、どうでもいい。
どうでもいいけど、蔑ろにされるのは気分が悪いわ。

 自分たちの立場を理解するべきじゃない?
 そっちは伯爵で、こちらは侯爵令嬢なのよ。

 だから分からせてやるために、伯爵が留守の時を狙って別棟に向かった。

 この伯爵家の人間は、私のばかりだけど、ほんの数人を味方に引き入れた。

 善人とか悪人とか関係なく、いいえ善人ほど妻を娶りながら恋人と暮らしている伯爵に不信感を抱きやすい。

 私がを演じれば、同情してくれる人間もいた。

 昔から伯爵家に仕えている人間は無理だけど、若いメイドほど引っかかりやすい。

「伯爵がいない間に、こちらに来るように」言われている。

 少しでも仲良くなりたいの。

 そんな私の嘘に騙されて、そのメイドは古株のメイドと別棟の護衛を退けて、私を別棟へと入れてくれた。

 本当、役に立ってくれたわ。

 少し脅せば逃げ出すだろうけど、痛い目に合わせたほうが私の気も晴れそうね。

 だから、お茶を飲むために準備されていたカップを女に投げつけた。

 咄嗟に腕で庇われて顔に傷はつかなかったけど、カップが割れるほどの力だったみたいで、女の腕から血が流れた。

 もうひと押しだと、熱湯で入れられた紅茶の入ったポットを持ち上げ、女に投げつけようとして・・・

 突然床に押さえつけられた。

 それからは、一瞬だったわ。

 私を押さえつけたのは、別棟の護衛。
その護衛を連れて来たのは、嫌な予感がして戻って来たという伯爵と私に騙されたはずのメイド。

 私はすぐに離縁の手続きをされ、帝国へと戻されることになった。

 帝国から多額の賠償金が払われたことと、妻がいながらそれをお飾りにして恋人を囲っていたことが公になれば伯爵家の立場が悪くなるって理由らしい。

 ふん。
当たり前じゃない。

 悪いのは私じゃなく、私を蔑ろにしたアッチなんだから。

 実家の侯爵家に戻った私に、お母様は冷たく叱責してきたけど、お父様は優しく迎えてくれた。

 お母様からはお祖父様とお祖母様に会いに行くことを禁じられたけど、お父様が味方だから上手くお母様の目の届かない時に会いに行った。

 やっぱりお母様以外は、私に優しい。
お父様も離縁してしまえばいいのに。

 お母様は、ハデス様は婚約者を迎えられたから、絶対に近づかないようにって言ってきた。

 は?婚約者?
ハデス様に?どういうことよ!

 ハデス様はなのよ!

 その女、排除しなきゃ。
その場所は私のものよ。
 
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