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みんな言うことは同じね

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「先に捕らえられれば良かったのだが、さすがに怪我をさせたとはいえ相手は平民だし、怪我の具合もさほど重くなかったこともあり、離縁はしたが怪我をした娘と示談は済んでいる」

 ああ。
 侯爵家が示談金を払ったのかしら。

 それに、最初の契約で恋人の存在を話してお互いが納得の上とはいえ、第三者には分からないから、伯爵家としても大事にはしたくなかったのでしょうね。

「ここは居住区だから、許可の与えられていない人間が入ってくることは基本的にないけれど、彼女にそういう常識は通じないから、必ずハンナと一緒にいて欲しい。ハンナは、武術の嗜みがあるから、一般的な騎士程度になら負けない」

「まぁ!」

 私とさほど体格の変わらないハンナが、騎士の方よりも強いだなんて。

「でも示談が終わっているなら、今の状態では捕えることはできないのでは?単に離縁して戻られただけですし」

「ああ。だが、絶対にジュエルに絡んでくる。俺とジュエルが婚約したことを、皇妃様の妹君から聞いて絶対に城にやってくる。常識が通じないから、皇妃様に会いに来たと言って、立ち入り禁止の居住区にやって来るはずだ」

「・・・」

 なんだか、そういうことに絶対的な信頼?を持たれるのって・・・

 本当に規格外な方なのね。

 離縁されて戻って来たのだから、大人しくしていればいいのに。

 皇帝陛下が甘い方でないことくらい、理解っていらっしゃると思うけど。

 それから三日。
エレメンタル帝国について勉強したり、お部屋で刺繍をしたりしながら過ごした。

「ハンナ、図書室へ行くわ」

「はい」

 私はエレメンタル帝国について学ぶため、お城の図書室に通っていた。

 昨日と一昨日はハデス様もご一緒してくださったけど、今日は皇帝陛下に呼ばれていて私ひとりだ。

「ちょっと!」

 図書室まであと少しというところで、突然声をかけられた。

 立ち止まり振り返ると、金髪縦ロールのご令嬢が立っていた。

 ちょっとキツめの金色の瞳。
銀色一色のドレス。

 ああ。
この方が、皇妃様の姪御様のロロナ様ね。

 夜会じゃあるまいし、銀色のドレスなんて。
 最近は、刺繍や小物で色を取り入れるのが流行なのに。

 ハデス様は自分のものだと言いたいのかしら?

 こういうご令嬢は、シリウス殿下の時にもたくさんいたわ、

 自分の方が殿下には相応しい。

 身の程知らず。

 殿下を誑かした悪女。

 そんな悪意に五年も耐えた私は、背筋をピンと伸ばして、ご令嬢に向かい合った。

「どちら様でしょうか」

「あなた、ハデス様の婚約者の座を辞退しなさい!あの方は!」

 何度も聞いた台詞だわ。
みんな言うことは同じなのね。
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