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婚約者候補〜ハデス視点〜

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「は?」

 友人の、ルーク・トライデント・・・いやもう婿入りしたからルーク・リビエラ小伯爵か。

 彼から言われたことが理解できない。
いや、言っていることは分かるのだが、脳が理解しようとしない。

「今、婚約と言ったか?」

「正確に言うと、ジュエル嬢が望めば婚約者にならないか?だ。あと、婚約者のふりをしろ、だな」

 いや、意味がわからない。

 ジュエル・リビエラ嬢は伯爵令嬢で、俺は一応まだ公爵令息だが、近く公爵家からは籍を抜いて平民になる。

 先日、国王陛下に謁見させていただき、籍を抜きたい旨をお話しした。

 陛下は、弟が成人して本人が公爵家を継ぐと言ったら、籍を抜くことを許可してくれると言った。

 そんなに待ちたくないと言いたいところだったが、陛下は両親には廃籍の申し出があって許可したと伝えておくと言ってくれた。

 籍が実際に抜けるのは四年後になるが、これ以上不必要にあの家に関わらなくて済む。

 だから、廃籍されるまでは公爵令息だが平民だ。
 その平民と、伯爵令嬢が望めば婚約?

 しかも、婚約者のふりってなんだ?

「義父上は、ジュエル嬢がエレメンタル帝国に行くことを認めた。ただ、フレグランスが過保護でね。相手にジュエル嬢のことを見守っていて欲しいと言うんだ。彼女はとても愛らしいし、言い寄ろうとする男もいるかもしれない。だから、婚約者役が必要になる。ウェルズは公爵家から籍を抜いて平民になるつもりなんだろ?先立つものはあればあるほどいいだろう?ちゃんと対価は払うから受け入れてくれないか?」

「いや、しかしご令嬢が嫌がるだろう」

「それが、ウェルズと一緒に行きたいと言うんだ。彼女は婚約者を公爵令嬢に奪われたことで、身分が上の人間に壁を作る傾向がある。ただ、ウェルズは公爵家から抜けると言ってたからか、それがないんだ。僕たちはジュエル嬢に心のままに自由に過ごして欲しいんだ」

 ジュエル嬢は、シリウス殿下から望まれて十歳の年に婚約したと聞いている。

 そして五年、血の滲むような王太子妃教育を受け、学園に入学し、殿下の心変わりが起きた。

 相手は元が庶子だったとはいえ公爵令嬢。

 ジュエル嬢は、伯爵令嬢だということを王妃殿下や周囲から相当嫌味を言われ続けていたらしい。

 マクラーレン王国に行ったことで、高位貴族に絶対に嫁ぎたくないという気持ちはなくなったらしいが、ローゼン王国王族が彼女に残した傷は大きいということだろう。

 確かに俺が、伯爵夫妻を説き伏せたら連れて行ってもいいと言ったんだが・・・
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