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意外な申し込み

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 諜報という言葉に、私はその場から逃げ出すことにした。

 ルージュ様と仲良くできることは、嬉しい。

 ルージュ様は公爵令嬢だけど、傲慢でも我儘でもない。

 その身分に相応しい言動をされるけど、身分が低いからといって、人を見下したりしない。

 王太子妃、未来の王妃に相応しい方だと思う。

 ただ、ルージュ様の婚約者という関係で王太子殿下と、王太子殿下と従兄弟という関係で大公子息様とご一緒させていただく機会が増えたことは・・・正直言って嬉しくない。

 私は・・・
伯爵令嬢でありながら、ローゼン王国の王太子殿下シリウス様と婚約関係にあった。

 血の滲むような王太子妃教育を受けて、シリウス殿下の隣に立つに相応しくあろうと頑張ったのに・・・

 結局は、公爵令嬢という身分に負けてしまった。

 そのことに関しては、シリウス殿下を責めるつもりはない。

 人を好きになる気持ちはどうしようもないものだし、王太子という立場を考えても身分の高い公爵令嬢を選ぶのは当然だったから。

 だけど、やり方が間違っていた。
それに・・・平然と嘘を吐かれたことがどうしても許せなかった。

 信頼できない人と、ずっと一緒には生きていけないわ。

 結局、シリウス殿下の新たな婚約者となった公爵令嬢には、王太子妃になれる資質がなく、シリウス殿下は罰として男性としての機能を失った上で公爵家へと婿入りした。

 シリウス殿下の嘘に、思うところがなかったわけじゃない。

 でも私とは無関係な場所でなら、普通に結婚して、子供の親になって欲しかった。

 あの一件で、つくづく思ったのだ。

 次の婚約は、身の丈に合う人としよう。

 もう、あんな風に誰かに振り回される立場にはなりたくない。

 私は伯爵令嬢なんだから、侯爵家や伯爵家に嫁ぐのが身の丈に合っているのよ。

 だから、王太子殿下ともルイス様とも、あまり近づきたくなかった。

 ルイス様に婚約者がいらっしゃるのかどうかはお聞きしてはいないけど、公爵家のご子息で王太子殿下の従兄弟だもの、いないわけがないわ。

 婚約者のご令嬢に睨まれたくない。

 そう思っていたのだけど・・・

「ごめんなさい。よく聞こえなかったのですが・・・」

「うん?だからね、ルイス・ウイングバード公爵令息の婚約者になって欲しいなって。駄目かい?」

「・・・」

 王太子殿下は何をおっしゃっているのかしら?

 百歩譲って、ルイス様に婚約者がいらっしゃらなくて、婚約者を決めなきゃいけないとして、どうしてそれが私なの?

 そして、どうして王太子殿下がそれを私におっしゃるのかしら?

 
 
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