上 下
4 / 215

繰り返し

しおりを挟む
 あの日以来、私はシリウス殿下のことを疑いの目で見るようになってしまった。

 何故なら・・・

 注意して殿下の行動を見ていると、あのご令嬢と逢瀬を重ねている場を何度も目撃することになったからだ。

 シリウス殿下は、その逢瀬が咎められないように空き教室を利用していた。

 二人一緒に教室に出入りしたりせず、長い時間共にいたりもしない。

 しかも誰かに目撃されても誤魔化せるように、ほんの少し扉を開けて、意味のない書類を机に並べて手伝いを擬装する。

 それでいて、扉から覗き込まなければ見えない位置で、抱きしめ合う。

 交わされる言葉はいつも甘い。

「ずっとそばにいたい」

「離れたくない」

「一緒に生きていきたい」

 そして、口づけ合う。

 私は手鏡を使って、見えない位置の彼らの行動を盗み見た。

 扉に隠れて、その発言も聞いた。

 エミリ・コンフォート。
コンフォート公爵家に半年前に引き取られた彼女は、元は平民だったそうだ。

 公爵が若い頃に使用人に手を出して産ませた子で、婚外子だったエミリ様だけど、母親が亡くなったことで公爵が引き取ったそうだ。

 ふわふわとした金髪に、エメラルドのような瞳。

 突然貴族令嬢になったエミリ様は、平民のような屈託のなさと、その美貌でシリウス殿下の心を捉えたようだった。

 私の五年間は何だったのだろう。

 あの厳しくて辛い王太子妃教育は。

 そう思うけれど、人が人を好きになる気持ちに時間は関係ないのかもしれない。

 それに身分を言えば、公爵家のご令嬢となったエミリ様の方がシリウス殿下の後ろ盾になる。

 あんなに想い合う二人だ。
すぐに殿下から婚約の解消の話があるだろう。

 そう思っていた。
でも、待てど暮らせどその気配がない。

 伯爵令嬢の私から王太子殿下に、婚約の解消を申し出るわけにはいかない。

 だから仕方なく、それとなくシリウス殿下を誘導することにした。

「シリウス殿下」

「ジュエル。どうしたの?」

「あの・・・殿下はコンフォート公爵令嬢様のこと、ご存知ですか?」

 お付き合いされてますよね?とか言えないのがもどかしい。

 でも私から話を振れば、殿下も気持ちを言い出しやすいだろう。

 きっと言い出しにくかったのだろう。
五年も婚約関係にあったのだから。

 だけどそう思っていた私の前で、シリウス殿下は息を吐くように嘘を吐いた。

「うん?ああ。たまに挨拶はするけど?なに?ジュエル、ヤキモチかい?嬉しいな。でも、僕の好きなのはジュエルだけだよ。安心して?」

 その、この五年間見て来たのと全く変わらない表情と声に、吐き気がした。
しおりを挟む
感想 574

あなたにおすすめの小説

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜

矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』 彼はいつだって誠実な婚約者だった。 嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。 『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』 『……分かりました、ロイド様』 私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。 結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。 なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……

矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。 『もう君はいりません、アリスミ・カロック』 恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。 恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。 『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』 『えっ……』 任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。 私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。 それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。 ――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。 ※このお話の設定は架空のものです。 ※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈 
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

見捨てられたのは私

梅雨の人
恋愛
急に振り出した雨の中、目の前のお二人は急ぎ足でこちらを振り返ることもなくどんどん私から離れていきます。 ただ三人で、いいえ、二人と一人で歩いていただけでございました。 ぽつぽつと振り出した雨は勢いを増してきましたのに、あなたの妻である私は一人取り残されてもそこからしばらく動くことができないのはどうしてなのでしょうか。いつものこと、いつものことなのに、いつまでたっても惨めで悲しくなるのです。 何度悲しい思いをしても、それでもあなたをお慕いしてまいりましたが、さすがにもうあきらめようかと思っております。

処理中です...