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セレスティーナ10歳(11)
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グリーンノートの香りが私を包み、まだ少年の、でも威厳を感じさせる声が頭上から聞こえた。
「この国の王子は面白いことを言う。私の最愛の婚約者に懸想されているのかな?だが、発言には気をつけたほうが良い。君は仮にも王族だ。君の発言は、国を危機に陥れるかもしれないよ」
「ユリウス様。来て下さったのですね」
振り返って、真っ白な軍服の胸に飛び込んだ。
一瞬、ユリウス様の体が強張った気がして、顔を見上げる。
「ユリウス様?」
「ああ、可愛い。セレスから抱きついてくれるなんて初めてで、あまりに幸せでめまいがするよ。今日のドレス姿も素敵だね」
今日の私は、ユリウス様の髪と瞳の色である青いドレスを身につけている。
まだ十歳だから型は可愛らしいプリンセスラインだけど、レースを上手く使って少し大人っぽいデザインにした。
同じ青でも、淡い水色から晴れた日の澄んだ青、そして真夏の濃い青色と、レースの色にグラデーションを付けている。
婚約を決めてから、ユリウス様は私を甘やかし放題だったから、帝国に戻ってしまわれてからは、私は普段着でも青を着るようになっていた。
そうすれば、ユリウス様に包まれている気がして、安心出来たから。
そうだわ。
人前で抱きつくなんて、公爵令嬢としてはしたなかったかしら。
目の前でユリウス様に抱き付く私に、後ろからエルム殿下がいらだったような声を上げる。
「セレスティーナ嬢!」
「可愛いセレス。あの王子に名を呼ぶ権利を与えたのかい?」
「いいえ。いいえ、ユリウス様」
許すわけがない。
名を呼べるのは、家族と婚約者、それから私が許した友人のみ。
特に異性は家名で呼ぶものだ。
その点でも、この国の王族はおかしい。
最初から当然のようにセレスティーナと呼ばれたわ。
ふーんと言ったユリウス様を見上げると、私を見つめる目はとても優しいのに、私の後方、おそらくエルム殿下がいるあたりを見る視線は冷たい。
そういえば、さっき「私」の最愛の婚約者って言ってたわ。
ユリウス様は、皇帝陛下。
公の時はご自分のことを「私」と呼ぶ。
あとは・・・とても怒ってらっしゃる時も。
どちらにしろ、早く謝罪したほうが良いんじゃないかしら?
ハイドランジア帝国皇帝陛下は、冷酷皇帝と呼ばれているのよ。
その陛下の婚約者に懸想なんて、国を滅ぼしたいの?
「セントフォーリア国はうちと戦争でもしたいのかな?」
「お、お待ち下さい!ハイドランジア皇帝陛下ッ!」
慌てた様子で、国王陛下が壇上から駆け降りてくる。
陛下はともかく、隣にいる王妃様も目の前の王子殿下も、事の大きさが分かっていないみたいだけど、この国大丈夫かしら?
「この国の王子は面白いことを言う。私の最愛の婚約者に懸想されているのかな?だが、発言には気をつけたほうが良い。君は仮にも王族だ。君の発言は、国を危機に陥れるかもしれないよ」
「ユリウス様。来て下さったのですね」
振り返って、真っ白な軍服の胸に飛び込んだ。
一瞬、ユリウス様の体が強張った気がして、顔を見上げる。
「ユリウス様?」
「ああ、可愛い。セレスから抱きついてくれるなんて初めてで、あまりに幸せでめまいがするよ。今日のドレス姿も素敵だね」
今日の私は、ユリウス様の髪と瞳の色である青いドレスを身につけている。
まだ十歳だから型は可愛らしいプリンセスラインだけど、レースを上手く使って少し大人っぽいデザインにした。
同じ青でも、淡い水色から晴れた日の澄んだ青、そして真夏の濃い青色と、レースの色にグラデーションを付けている。
婚約を決めてから、ユリウス様は私を甘やかし放題だったから、帝国に戻ってしまわれてからは、私は普段着でも青を着るようになっていた。
そうすれば、ユリウス様に包まれている気がして、安心出来たから。
そうだわ。
人前で抱きつくなんて、公爵令嬢としてはしたなかったかしら。
目の前でユリウス様に抱き付く私に、後ろからエルム殿下がいらだったような声を上げる。
「セレスティーナ嬢!」
「可愛いセレス。あの王子に名を呼ぶ権利を与えたのかい?」
「いいえ。いいえ、ユリウス様」
許すわけがない。
名を呼べるのは、家族と婚約者、それから私が許した友人のみ。
特に異性は家名で呼ぶものだ。
その点でも、この国の王族はおかしい。
最初から当然のようにセレスティーナと呼ばれたわ。
ふーんと言ったユリウス様を見上げると、私を見つめる目はとても優しいのに、私の後方、おそらくエルム殿下がいるあたりを見る視線は冷たい。
そういえば、さっき「私」の最愛の婚約者って言ってたわ。
ユリウス様は、皇帝陛下。
公の時はご自分のことを「私」と呼ぶ。
あとは・・・とても怒ってらっしゃる時も。
どちらにしろ、早く謝罪したほうが良いんじゃないかしら?
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その陛下の婚約者に懸想なんて、国を滅ぼしたいの?
「セントフォーリア国はうちと戦争でもしたいのかな?」
「お、お待ち下さい!ハイドランジア皇帝陛下ッ!」
慌てた様子で、国王陛下が壇上から駆け降りてくる。
陛下はともかく、隣にいる王妃様も目の前の王子殿下も、事の大きさが分かっていないみたいだけど、この国大丈夫かしら?
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