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セレスティーナ10歳⑩
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「エルム殿下。ファーストダンスは婚約者と踊るものですよ」
お父様が周囲に聞こえないように、小さく嗜める。
貴族の子息なら、公爵であるお父様の方が立場は上だが、王族であるエルム殿下はどれだけ子供でもお父様より立場は上。
その王族が、教育を受けている子供なら知っていることを知らないなどと、周囲に嘲笑されないためである。
だけど、エルム殿下は予想外のことを周囲に聞こえる大きな声で言った。
「なら、僕の婚約者になれば問題ないだろう。大体、公爵家の令嬢が自国の王族の王子妃の座が埋まっていないのに、婚約者を決めるなんておかしな話だ。僕の婚約者になり、アマランス公爵家の後継は弟のジョエルに継がせれば良い」
この人は何を言っているのかしら?
馬鹿なの?
気持ち悪いのを忘れるほどの、論外な意見にお父様もお母様も私も呆気に取られた。
どうして公爵家に生まれたら、王族の婚約者になることが当たり前なの?
そんな決まりなんてないわよ。
国王陛下がお認めになったことに、一王子であるエルム殿下は、異議を唱えるつもりなの?
子供だからで済まないわ。
高位貴族や王族は権利を持っている分、責任が生じるのよ。
それでも国内だけの問題なら、成人前だからと叱責だけで済むことでも、私が婚約しているのは他国の、しかも大国である帝国の皇帝陛下。
帝国に喧嘩を売るつもり?
国内では、確かにエルム殿下より立場が上なのは国王陛下と王妃殿下だけでしょうけど、ユリウス様は皇帝陛下なのよ?
周囲の貴族の顔をチラリと見ると、みんな血の気の引いた真っ青な顔をしている。
でしょうね。
そんな馬鹿な発言をする王子が王位を継いだら国が傾くわ。
それ以前に、そんな発言が帝国に伝わったら、戦争になるかもしれない。
「さぁ、セレスティーナ嬢。手を」
私に手を差し伸べながら、にこやかに微笑むエルム殿下。
私は一歩下がってから、頭を下げた。
「申し訳ありませんが、お断りします。私は婚約者以外と踊るつもりはありません」
「だから僕となら問題はないだろう?」
「私はユリウス陛下以外と婚約した覚えはありませんし、するつもりもありません」
はっきり否定しているのに、どうして通じないの?
ああ。エルムンド殿下も全く人の話を聞かなかったわ。
自分の欲求を突き付けるだけ。
自分がこんなに愛しているのだから、私も同じだけ愛を返すのが当たり前みたいに考えてた。
「セレスティーナ嬢は恥ずかしがり屋だね。父上に言ってすぐに婚約を結ぼう。ほら」
尚も手を差し伸べたまま歩を進めてくるエルム殿下に、数は後へ下がった。
背中が誰かに当たり、爽やかなグリーンノートの香りに包まれる。
強張った体から力が抜けるのを感じた。
お父様が周囲に聞こえないように、小さく嗜める。
貴族の子息なら、公爵であるお父様の方が立場は上だが、王族であるエルム殿下はどれだけ子供でもお父様より立場は上。
その王族が、教育を受けている子供なら知っていることを知らないなどと、周囲に嘲笑されないためである。
だけど、エルム殿下は予想外のことを周囲に聞こえる大きな声で言った。
「なら、僕の婚約者になれば問題ないだろう。大体、公爵家の令嬢が自国の王族の王子妃の座が埋まっていないのに、婚約者を決めるなんておかしな話だ。僕の婚約者になり、アマランス公爵家の後継は弟のジョエルに継がせれば良い」
この人は何を言っているのかしら?
馬鹿なの?
気持ち悪いのを忘れるほどの、論外な意見にお父様もお母様も私も呆気に取られた。
どうして公爵家に生まれたら、王族の婚約者になることが当たり前なの?
そんな決まりなんてないわよ。
国王陛下がお認めになったことに、一王子であるエルム殿下は、異議を唱えるつもりなの?
子供だからで済まないわ。
高位貴族や王族は権利を持っている分、責任が生じるのよ。
それでも国内だけの問題なら、成人前だからと叱責だけで済むことでも、私が婚約しているのは他国の、しかも大国である帝国の皇帝陛下。
帝国に喧嘩を売るつもり?
国内では、確かにエルム殿下より立場が上なのは国王陛下と王妃殿下だけでしょうけど、ユリウス様は皇帝陛下なのよ?
周囲の貴族の顔をチラリと見ると、みんな血の気の引いた真っ青な顔をしている。
でしょうね。
そんな馬鹿な発言をする王子が王位を継いだら国が傾くわ。
それ以前に、そんな発言が帝国に伝わったら、戦争になるかもしれない。
「さぁ、セレスティーナ嬢。手を」
私に手を差し伸べながら、にこやかに微笑むエルム殿下。
私は一歩下がってから、頭を下げた。
「申し訳ありませんが、お断りします。私は婚約者以外と踊るつもりはありません」
「だから僕となら問題はないだろう?」
「私はユリウス陛下以外と婚約した覚えはありませんし、するつもりもありません」
はっきり否定しているのに、どうして通じないの?
ああ。エルムンド殿下も全く人の話を聞かなかったわ。
自分の欲求を突き付けるだけ。
自分がこんなに愛しているのだから、私も同じだけ愛を返すのが当たり前みたいに考えてた。
「セレスティーナ嬢は恥ずかしがり屋だね。父上に言ってすぐに婚約を結ぼう。ほら」
尚も手を差し伸べたまま歩を進めてくるエルム殿下に、数は後へ下がった。
背中が誰かに当たり、爽やかなグリーンノートの香りに包まれる。
強張った体から力が抜けるのを感じた。
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