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セレスティーナ10歳⑨

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「お母様。心配をおかけしました」

 壁際に下がり、お母様が渡してくれたジュースに口をつける。

 お母様は近付いてきた使用人からでなく、他のご令嬢が取っている使用人からジュースを取ってくれた。

 私が王子、いいえ王宮自体を警戒しているのに気付いてくれたみたい。

 エルム殿下はエルムンド王太子ではないし、国王陛下も王妃殿下も、王宮の騎士も侍女も、みんなあの時のみんなとは違う。

 でも、信用する気持ちにはなれなかった。

 王家に逆らえなかったことは、理解してる。

 でも、国王陛下と王妃様は私や父様、母様、リウスを助けられる力があった。

 なのに自分の息子可愛さに、私の大切な人達を殺したのよ。

 そんな人たちの血を継いでいる王家を、私は絶対に信用しない。

 使用人に悪意はないのは分かるけど、王族に逆らえないのは同じはず。

 変な薬でも混ぜられたら大変だもの。
お母様の気遣いがなければ、何も口にするつもりはなかった。

「旦那様に後をおまかせして、屋敷に帰りましょうか?皇帝陛下が見えたら、旦那様にお話していただけば良いわ」

「そうですね。ダンスなんてお断りですから」

 お母様も王妃様の態度に、不信感を持たれたみたい。

 それはそうよね。
私は帝国の皇帝陛下の婚約者なの。

 その私に「妃になって欲しい」と言ったエルム殿下も、それを咎めもせずダンスに誘えと言った王妃殿下もおかしいのよ。

「お母様、帰りましょう」

「そうね。なら、旦那様にお願いしてきましょう」

 お母様は約束通り、私のそばを離れる気はないみたい。

 良かった。
今の私は子供だもの。大人に捕まったら逃げられないわ。

「セレスティーナ、大丈夫かい?」

 他の貴族の方々とお話中のお父様が、私とお母様に気付く。

 大丈夫か、大丈夫でないかというなら、大丈夫じゃないわ。

 ものすごく視線がまとわりついて、気持ち悪いもの。

 でもそれに反応したりしない。
話しかけてくる隙を与えるつもりはないわ。

「お母様と先に屋敷に戻ろうと思います。ご挨拶はしましたし、かまいませんよね?」

「ああ。それなら「帰る前に僕と踊ってもらおうかな」

 お父様の言葉に被せるように、後ろから声が聞こえた。

 いくら王族だからって、礼儀がなってないんじゃない?
 お父様の言葉を遮るなんて。

 それに、ファーストダンスは婚約者と踊るのが常識なのよ。

 婚約者がいないご令嬢は、家族と踊ってから、他のご子息と踊るの。

 今はユリウス様がいないから、お父様と踊った後ならエルム殿下と踊れるけど、だからって踊るつもりはないわ。
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