24 / 32
セレスティーナ10歳⑧
しおりを挟む
振り返った私は、そのまま固まった。
天井から吊られたそれは、全身が血で赤黒く染まっていた。
焦茶の髪にも血がこびりつき、目からも血が流れている。
剣で何度も斬りつけられたのか、血がついていない場所はどこにもなく、両足はなかった。
「あ、あ、ああ、ああああああああ!」
どんな姿になっていても、それが誰より愛しい人だと分かる。
私の大切な人たちは、全員が王家によって殺されていた。
直接手を下したのが、エルムンド殿下ではないのかもしれない。
でも、あの男が指示を出したに違いない。
それを王家も、使用人も、騎士も、ジュリエット様も、全員が見て見ぬ振りをした。
許さない。
あの男も、王家も。
そして大切な人達を殺したあの男に抱かれていた自分自身が汚らしくて、触られるのも見られるのも嫌だと思った私は、絶叫した勢いのまま、舌を噛み切った。
あの後、どうなったのかは分からない。
でも王家の血は繋がっているから、結局ジュリエット様と結婚したのだろう。
彼らにとって、貧乏子爵家や男爵家の一つや二つなくなることなんて、何でもないことなのだ。
どうして、セレスティーナの中にセレスの記憶が目覚めたのかは分からないけど、今は目覚めて良かったと思う。
記憶があったから、王家との婚約を拒めた。
今の私は、権力に逆らうことのできない貧乏男爵家の令嬢なんかじゃない。
帝国の皇帝陛下の婚約者。
いくら自国の貴族だといっても、大国の皇帝陛下から奪うなんて出来ないはず。
人を好きになる気持ちが、どうしようもないものだってことは分かる。
でも、人を攫って無理矢理なんて、犯罪じゃない!
それだけでも許せないのに、あの男は父様を。母様を。おじ様を。そして、リウスを殺した。
国王陛下や王妃殿下が、私のことを知っていたのかは分からない。
でも、ジュリエット様は同罪よ。
今なら分かる。
私とリウスを引き離すために、ジュリエット様はリウスに近付いたに違いない。
絶対に許さない。
私やリウスが何をしたというの。
貧乏でも、ただ穏やかに暮らしたかっただけなのに。
エルム殿下が、あの男じゃないことは分かってる。
でも皇帝陛下の婚約者である私に、社交辞令かもしれないけど「妃になって欲しい」と言ったのよ。
それに、背中を向けた私にまとわりついていた、あの視線。
私に愛を語り続けたあの男と同じ、粘着質な執着を感じたわ。
本当に、ユリウス様と婚約していて良かった。
帝国に行く不安も、エルム殿下から離れられるならどんなことだって耐えてみせるわよ。
天井から吊られたそれは、全身が血で赤黒く染まっていた。
焦茶の髪にも血がこびりつき、目からも血が流れている。
剣で何度も斬りつけられたのか、血がついていない場所はどこにもなく、両足はなかった。
「あ、あ、ああ、ああああああああ!」
どんな姿になっていても、それが誰より愛しい人だと分かる。
私の大切な人たちは、全員が王家によって殺されていた。
直接手を下したのが、エルムンド殿下ではないのかもしれない。
でも、あの男が指示を出したに違いない。
それを王家も、使用人も、騎士も、ジュリエット様も、全員が見て見ぬ振りをした。
許さない。
あの男も、王家も。
そして大切な人達を殺したあの男に抱かれていた自分自身が汚らしくて、触られるのも見られるのも嫌だと思った私は、絶叫した勢いのまま、舌を噛み切った。
あの後、どうなったのかは分からない。
でも王家の血は繋がっているから、結局ジュリエット様と結婚したのだろう。
彼らにとって、貧乏子爵家や男爵家の一つや二つなくなることなんて、何でもないことなのだ。
どうして、セレスティーナの中にセレスの記憶が目覚めたのかは分からないけど、今は目覚めて良かったと思う。
記憶があったから、王家との婚約を拒めた。
今の私は、権力に逆らうことのできない貧乏男爵家の令嬢なんかじゃない。
帝国の皇帝陛下の婚約者。
いくら自国の貴族だといっても、大国の皇帝陛下から奪うなんて出来ないはず。
人を好きになる気持ちが、どうしようもないものだってことは分かる。
でも、人を攫って無理矢理なんて、犯罪じゃない!
それだけでも許せないのに、あの男は父様を。母様を。おじ様を。そして、リウスを殺した。
国王陛下や王妃殿下が、私のことを知っていたのかは分からない。
でも、ジュリエット様は同罪よ。
今なら分かる。
私とリウスを引き離すために、ジュリエット様はリウスに近付いたに違いない。
絶対に許さない。
私やリウスが何をしたというの。
貧乏でも、ただ穏やかに暮らしたかっただけなのに。
エルム殿下が、あの男じゃないことは分かってる。
でも皇帝陛下の婚約者である私に、社交辞令かもしれないけど「妃になって欲しい」と言ったのよ。
それに、背中を向けた私にまとわりついていた、あの視線。
私に愛を語り続けたあの男と同じ、粘着質な執着を感じたわ。
本当に、ユリウス様と婚約していて良かった。
帝国に行く不安も、エルム殿下から離れられるならどんなことだって耐えてみせるわよ。
19
お気に入りに追加
412
あなたにおすすめの小説
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
私が妻です!
ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。
王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。
侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。
そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。
世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。
5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。
★★★なろう様では最後に閑話をいれています。
脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。
他のサイトにも投稿しています。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中
平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜
本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」
王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。
偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。
……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。
それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。
いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。
チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。
……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。
3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。
スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」
伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。
そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。
──あの、王子様……何故睨むんですか?
人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ!
◇◆◇
無断転載・転用禁止。
Do not repost.
【完結】女王と婚約破棄して義妹を選んだ公爵には、痛い目を見てもらいます。女王の私は田舎でのんびりするので、よろしくお願いしますね。
五月ふう
恋愛
「シアラ。お前とは婚約破棄させてもらう。」
オークリィ公爵がシアラ女王に婚約破棄を要求したのは、結婚式の一週間前のことだった。
シアラからオークリィを奪ったのは、妹のボニー。彼女はシアラが苦しんでいる姿を見て、楽しそうに笑う。
ここは南の小国ルカドル国。シアラは御年25歳。
彼女には前世の記憶があった。
(どうなってるのよ?!)
ルカドル国は現在、崩壊の危機にある。女王にも関わらず、彼女に使える使用人は二人だけ。賃金が払えないからと、他のものは皆解雇されていた。
(貧乏女王に転生するなんて、、、。)
婚約破棄された女王シアラは、頭を抱えた。前世で散々な目にあった彼女は、今回こそは幸せになりたいと強く望んでいる。
(ひどすぎるよ、、、神様。金髪碧眼の、誰からも愛されるお姫様に転生させてって言ったじゃないですか、、、。)
幸せになれなかった前世の分を取り返すため、女王シアラは全力でのんびりしようと心に決めた。
最低な元婚約者も、継妹も知ったこっちゃない。
(もう婚約破棄なんてされずに、幸せに過ごすんだーー。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる