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セレスティーナ10歳⑧

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 振り返った私は、そのまま固まった。

 天井から吊られたは、全身が血で赤黒く染まっていた。

 焦茶の髪にも血がこびりつき、目からも血が流れている。
 剣で何度も斬りつけられたのか、血がついていない場所はどこにもなく、両足は

「あ、あ、ああ、ああああああああ!」

 どんな姿になっていても、それが誰より愛しい人だと分かる。

 私の大切な人たちは、全員が王家によって殺されていた。

 直接手を下したのが、エルムンド殿下ではないのかもしれない。

 でも、あの男が指示を出したに違いない。

 それを王家も、使用人も、騎士も、ジュリエット様も、全員が見て見ぬ振りをした。

 許さない。

 あの男も、王家も。

 そして大切な人達を殺したあの男に抱かれていた自分自身が汚らしくて、触られるのも見られるのも嫌だと思った私は、絶叫した勢いのまま、舌を噛み切った。

 あの後、どうなったのかは分からない。

 でも王家の血は繋がっているから、結局ジュリエット様と結婚したのだろう。

 彼らにとって、貧乏子爵家や男爵家の一つや二つなくなることなんて、何でもないことなのだ。

 どうして、セレスティーナの中にセレスの記憶が目覚めたのかは分からないけど、目覚めて良かったと思う。

 記憶があったから、王家との婚約を拒めた。

 今の私は、権力に逆らうことのできない貧乏男爵家の令嬢なんかじゃない。

 帝国の皇帝陛下の婚約者。

 いくら自国の貴族だといっても、大国の皇帝陛下から奪うなんて出来ないはず。

 人を好きになる気持ちが、どうしようもないものだってことは分かる。

 でも、人を攫って無理矢理なんて、犯罪じゃない!

 それだけでも許せないのに、あの男は父様を。母様を。おじ様を。そして、リウスを殺した。

 国王陛下や王妃殿下が、私のことを知っていたのかは分からない。

 でも、ジュリエット様は同罪よ。

 今なら分かる。
私とリウスを引き離すために、ジュリエット様はリウスに近付いたに違いない。

 絶対に許さない。

 私やリウスが何をしたというの。
貧乏でも、ただ穏やかに暮らしたかっただけなのに。

 エルム殿下が、あの男じゃないことは分かってる。

 でも皇帝陛下の婚約者である私に、社交辞令かもしれないけど「妃になって欲しい」と言ったのよ。

 それに、背中を向けた私にまとわりついていた、あの視線。

 私に愛を語り続けたあの男と同じ、粘着質な執着を感じたわ。

 本当に、ユリウス様と婚約していて良かった。

 帝国に行く不安も、エルム殿下から離れられるならどんなことだって耐えてみせるわよ。





 
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