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セレスティーナ10歳⑤

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 お父様にエスコートされ、王宮のパーティー会場へと足を踏み入れる。

 顔を合わせたくはないが、私が他国へ留学することを祝ってくれるパーティーだ。

 国王陛下たちに礼を言わないわけにはいかない。

 重い足を無理矢理に進めて、王族が並ぶ一段高い場所を目指す。

 お父様が胸に手を当て頭を下げるのと合わせて、お母様とカーテシーをした。

 まだ十歳だけど、公爵家の令嬢としてしっかりとマナー教育を受けていたから、完璧とはいかないけど、前世のセレスよりは綺麗なカーテシーだと思う。

「顔を上げよ」

「陛下。此度は我が娘セレスティーナのために盛大なパーティーを開いていただき、ありがとうございます。セレスティーナもお礼を申し上げなさい」

「アマランス公爵が娘、セレスティーナと申します。このような席を設けていただき、ありがとうございます」

 お父様が国王陛下にお礼を言い、私も促されて再び頭を下げた。

 国王陛下は金色の髪と青い瞳の、お優しそうな方だった。

 国王陛下は、先代の陛下の一人娘であった王妃殿下に婿入りされた、隣国の第二王子殿下だ。

 だから、王家に継がれているという緑色の髪と瞳をされていない。

「とても愛らしいご令嬢ね。残念だわ。うちのエルムの婚約者になっていただきたかったわ」

 柔らかな声に、ほんの少しだけ視線を向けると、緑色の髪を結いあげ、同じく緑色の瞳を柔らかく細めた王妃殿下の姿があった。

 良かった。あの夢の瞳と同じ色だけど、嫌悪感も恐怖も感じない。

 ホッとして息を吐きかけた私は、背筋がゾワリとして冷や汗が背中を流れた。

 どうして?
王妃殿下のお姿を見ても、何も感じなかったのに!

 粘着質のある視線が、私にまとわりついている気がして、俯いた顔を上げることが出来ない。

「エルムもジョエルもご挨拶なさい」

「エルム・フォレストです。本当に愛らしいですね。是非、僕の妃になって欲しいです」

「ジョエル・フォレストです」

「ははは。エルムはセレスティーナ嬢に心を奪われたみたいだな。帝国との婚約が成っていなければ、是非にとお願いするところだが、残念だったな、エルム」

 国王陛下は楽しそうにそうおっしゃっているけど、私は私を妃にと言ったエルム殿下の視線と声に、体が震え出すのが分かった。

「セレ?」

 お母様が私の様子に気がついて、そっと声をかけてくれるけど、私は応えることが出来なかった。

 あの眼とあの声は。

 夢の中で私を見下ろし、絶対に自分だけのものだと、誰にもやらないと言ったあの人と同じ!
 

 
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