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過去⑥
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一瞬だけ。一瞬だけだと、目をキツく瞑り振り返ったリウスの体を、細い腕が触れ抱き付かれる。
その直後、リウスの唇に柔らかい何かが触れた。
思わず目を見開いたリウスは、それがジュリエットの唇だと分かり、固まる。
すぐにジュリエットはリウスから離れ背中を向けたが、その一瞬を見ていた者がいたことを、扉を背にしていたリウスは気付かなかった。
「ごめんなさい、リウス様。今日は私、帰りますわ」
背を向けて服を着たジュリエットが、リウスの横を通り過ぎて部屋を出て行く。
ついさっきまで、リウスを好きだと涙を浮かべ、抱きついて来た人間と同一人物とは思えない、あっさりとした態度だった。
それでも、下着姿のご令嬢に抱き付かれキスをされたことに、リウスは固まったまま動けない。
その後、副会長の公爵令息や辺境伯令息たちが執行部室にやって来たが、その日生徒会長の王太子殿下は来なかった。
気まずいリウスは、顔を合わせないことにホッとする。
時は遡り、リウスが執行部に向かった直後。
帰ろうとしていたセレスは、ある人物に呼び止められる。
「あの、リウス・・・コパー子爵令息のことでお話って、なんでしょうか?」
セレスを呼び止めたのは、緑色の髪と瞳をした少年。
スラリとした体躯に、にこやかな微笑みを浮かべている。
セントフォーリア王国第一王子のエルムンド王太子、その人である。
優しい笑顔に柔和な態度、王太子という身分。
エルムンドは多くのご令嬢の憧れの的だった。
セレスのような下位貴族からすれば、雲上の人で会うこともない人だが、伯爵家から上のご令嬢の中にファンクラブなるものもあるらしい。
そんな雲上人に声をかけられたセレスは、戸惑っていた。
セレスには接点のない人だが、婚約者のリウスが生徒会執行部員である。
リウスのことで話があると言われれば、従うしかない。
人通りの少ない廊下の奥で、エルムンドと向かい合ったセレスは、衝撃的な内容を信じることが出来なかった。
「そんな・・・あり得ません」
「でも、事実だ。リウスとジュリエットは恋仲だよ。それとも、ジュリエットより自分が愛されてる自信がある?」
「違います。私があり得ないと言ったのは・・・リウスが心変わりしたのなら、私に婚約の解消を申し出てから、サマラン公爵令嬢様に想いを伝えるはずだからです」
ジュリエット・サマラン公爵令嬢は、とても美しいご令嬢だ。
だから、リウスが心変わりしたと言われたら、有り得ないとは言えない。
でも彼女は、目の前の王太子殿下の婚約者だ。
そんな身分をわきまえないことをリウスがするとは思えなかった。
その直後、リウスの唇に柔らかい何かが触れた。
思わず目を見開いたリウスは、それがジュリエットの唇だと分かり、固まる。
すぐにジュリエットはリウスから離れ背中を向けたが、その一瞬を見ていた者がいたことを、扉を背にしていたリウスは気付かなかった。
「ごめんなさい、リウス様。今日は私、帰りますわ」
背を向けて服を着たジュリエットが、リウスの横を通り過ぎて部屋を出て行く。
ついさっきまで、リウスを好きだと涙を浮かべ、抱きついて来た人間と同一人物とは思えない、あっさりとした態度だった。
それでも、下着姿のご令嬢に抱き付かれキスをされたことに、リウスは固まったまま動けない。
その後、副会長の公爵令息や辺境伯令息たちが執行部室にやって来たが、その日生徒会長の王太子殿下は来なかった。
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「そんな・・・あり得ません」
「でも、事実だ。リウスとジュリエットは恋仲だよ。それとも、ジュリエットより自分が愛されてる自信がある?」
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だから、リウスが心変わりしたと言われたら、有り得ないとは言えない。
でも彼女は、目の前の王太子殿下の婚約者だ。
そんな身分をわきまえないことをリウスがするとは思えなかった。
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