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セレスティーナ10歳①

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「ほら、セレス。口を開けて」

 唇が指に触れないように心持ち大きく開けた口に、葡萄が入れられた。

 口いっぱいになったため、噛めなくて両手で口を隠してると、彼はクスクスと笑う。

 悔しくて頑張って噛み締めると、甘い果汁が口いっぱいに広がった。

「美味しい?」

 コクコクと頷くと、私を膝に抱いた彼は、優しく微笑んでくれる。

 去年、お父様の勧めでお会いした彼と、私は婚約した。

 王家からの婚約の申し込みを避けたかったのもあるけれど、彼を一目見た時、惹かれてしまったのだ。

 彼は、夏の青空のような髪と瞳をされた美少年で、私より五歳年上だ。

 婚約の申し込みは彼からされていたし、私が彼に惹かれたことが両親にも分かったみたいで、本来なら顔合わせだった日に、即座に婚約が決まった。

 私たちの婚約は、王家はもちろんの事、貴族社会に公表された。

 初めて会った時から、彼は私のことを溺愛してくれた。

 前世のセレスの時にも、今世のセレスティーナの時にも、お膝抱っこなんてされたことはなかった。

 だから当然のことながら、それをされるのは恥ずかしかったし、子供同士とはいえよくない気がしてお断りした。

 聞いてもらえなかったけど。

 だって、おろしてくださいってお願いしても、満面の笑みで何故と聞かれるのよ。

 恥ずかしいからと言えば、慣れれば恥ずかしくなくなると言われる。

 子供扱いしないでと言えば、子供だからじゃなく婚約者だからだと言われる。

 逆に淑女としてあり得ないと言えば、婚約者なら自然なことだと言われる。

 諦めたわ。
アレを暖簾に腕押しって言うのよ。

 何をどう言っても、聞いてくれないんだもの。

 それにお茶や食事のたびに、膝の上に座らされるのよ。
 諦めるしかないじゃない。

 どう断ってもきいてくれなきゃ、諦めもするし慣れちゃうわ。

 ユリウス様は、頑固だと思うの。
私にはいつも優しいけど、噂では「冷酷」と呼ばれているらしいの。

 全然想像つかないけど、貴族が優しいだけなことはないわよね。

 ユリウス様は私のことを「セレス」と呼ぶ。

 顔も声も全然違うのに、セレスと呼ぶユリウス様の眼差しがリウスを思い出させた。

「ユリウス様も食べて下さい。甘いですよ」

「じゃあ、セレスが食べさせて」

 ユリウス様は、私に葡萄の粒を手渡すとあーんと口を開けた。

 あーんにも慣れたわ。
両親がいてもするのには、最初戸惑ったけど、両親もユリウス様に文句なんて言えなかった。

 ユリウス様のお名前は、ユリウス・ハイドランジア。

 ハイドランジア帝国の若き皇帝陛下なのだから。
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