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転生王女の襲撃

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 それは、突然起こった。

 王宮内にいるはずのローズマリーの気配が消えた。
 探索用の魔法陣を敷いた時点で、フレイが執務室に現れる。

「陛下」

「何があった?」

 魔法陣に魔力を注ぎながら、フレイに報告を求める。

「ローズマリー様付きのメイドが盾に取られたようです」

「怪我は?」

「ローズマリー様を庇った時に少々。ですが、本人はローズマリー様を奪われたことの方がショックのようです」

 ローゼの気配を魔法陣が捉えた。
それは、ローゼに紅茶をかけた侯爵家の屋敷ー

 ローゼに害が及ぶ前に迎えにいかなければ。まさか、僕の最愛の花嫁を害しようとする愚か者がいるとは思わなかった。

「迎えに行ってくる」

「かしこまりました。いってらっしゃいませ」

 探索用の魔法陣に姿を消していく僕を、フレイが頭を下げて見送っていた。



「大丈夫だったかしら・・・」

 どこかの一室に閉じ込められた私は、私を庇って怪我をしたメイドのミアのことを考える。
 酷い怪我でないといいけど。

 あの時、突然部屋の中に現れた魔法陣から出てきた男たちから、私を奪われまいとミアが庇ってくれた。だけど、そこは多勢に無勢なのと女性なのが災いして、ミアは男たちに激しく打ち据えられてしまったのだ。
 ミアを殺されたくなくて、私は男たちに従う旨を伝えたけど、ミアは必死に私を守ろうとしてくれた。

 嬉しかった。人間の、こないだ会ったばかりの私のことを、守ろうとしてくれたことが、本当に嬉しかった。
 だから、私は男たちについてきたことに後悔はしていない。
 ミアを失ってしまったら、私は自分を許せないだろうから。

「あら?怖くて泣いているのかと思えば、随分と図太くていらっしゃるのね」

 背中にかけられた声に振り返ると、ドアが開いて1人の男と、令嬢が入ってきた。
 私に、紅茶をかけた侯爵家の令嬢、フランチェスカ・バスクール様。
 ということは、ここはバスクール侯爵家なのね。

「フランチェスカ・バスクール様、これはどういうことか、お聞きしてもよろしいでしょうか」

「へぇ。フランチェスカの言う通り、図太いみたいだ。まぁ、こういう気の強いのを屈服させる方が楽しいかな」

「まぁ。お兄様ってば趣味が悪いですわ」

 兄、ですか。そして、本当に趣味が悪いですわ。

「ねぇ、君をぐちゃぐちゃに汚したら、あの男は悲しむ?それとも、あっさり他の女を選ぶと思う?」

「私にも選ぶ権利はありますわ。あなたなどお断りです」

「君に選ぶ権利なんてないよ。このまま僕に大人しく抱かれる一択さ」

 伸びてきた手を避けるように後ずさった私を、その男は容易く捕まえると、ベッドへと投げ捨てた。

 跳ねる体に、息が止まる。その一瞬に、男は私の体の上に馬乗りになった。

「ああ、君なかなか可愛い顔をしてるね。気に入ったよ。首輪と鎖で繋いで、僕が飼ってあげよう」

「お断りですわ」

「いいね。気が強くて。泣いて許しを乞うまで、その体に教え込んであげるよ。どうせ魔王の元へは帰れないんだ。魔王の妻は初夜まで、純潔でなければならないんだからね」

 アルフレッド様の元へ帰れないとしても、こんな男の慰みものになったりしたら、父様に叱られるわ。

 私は、ベッド脇にある手に触れる物を掴むと、男へと叩きつける。

「くっ・・・」

 僅かに緩んだ足から体を引き抜くと、ベッドから飛び降りる。
 そのままドアへ駆け寄ろうとした私の髪を、フランチェスカが掴む。
 そして、その勢いのまま私を床へと引き倒した。

「逃さないわ!」

 フランチェスカの細い指が、私の首にかかる。首に絡んだ指が食い込み、息が詰まる。苦しさに眦に涙が滲んだ。

 父様、お兄様、お姉様・・・アルフレッド様・・・
 私、頑張りましたのよ。だけど、帰れそうにありませんわ。許してくださいね。

 愛しい人たちの顔を思い浮かべて、その瞼を閉じた。

 その瞬間ー
上で首を締める女が吹き飛ばされた。





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